保護者対応の負担が増大した原因は何か
「モンスター・ペアレント」という言葉が社会的にも知られているように、最近の教員がよく悩まされているのが「保護者対応」です。
実際に、昔と比べて保護者対応に負担を感じている教員は増えており、弁護士に相談したいというニーズも増えています。
文部科学省が各自治体の教育委員会に対して行った調査でも、10年ほど前と比べて弁護士に相談が必要な機会が増えたと感じている理由のうち、「保護者対応」であると回答した自治体が半数近くを占めており、最も多くなっています。
一昔前であれば保護者対応に弁護士が関わるといったケースは珍しかったかもしれません。
しかし、今では「文書での回答を求める」「面会を録音する」「内容証明郵便で連絡する」「弁護士を同行させて来校する」といったように、裁判になった時のことも考えて法的な対応を求める保護者は珍しくありません。
このことは、教員と保護者の関係を単なる「信頼関係」だけでなく、「法律関係」として意識しなければならない時代になったことを意味しています(学術的にはこのような現象は「法化」と呼ばれます)。
保護者の要求が増えた原因としては、日本は街の至る所にコンビニや自動販売機がある便利な社会なので、生まれた時からそのような社会で育った保護者は教員に対しても利便性を求める、という説があります。
インターネットやSNSの発達により、学校に対して要求する際に必要な法律に関する情報が手軽に入手できる時代になったことも関係していると言われます。
また、日本は先進国の中でも一人親の貧困率が非常に高く、保護者の経済状況の悪化も原因として注目されています。
さらに、海外では保護者のクレームは事務職員やカウンセラーが対応する場合が一般的ですが、日本では担任が対応することが多いので、負担を感じる教員が多いという制度的な原因も考えられます。
保護者に要求されたら…
教員が保護者に対して直接に負う法的義務として裁判で示されているものに、「教員が子どもに対して負う安全配慮義務に付随した保護者への報告義務」があります。例えば、学校で子どもが事故に遭った際に、その状況について担任が保護者に報告する義務です。
しかし、それ以外の義務については法的に負うかどうかは明確ではありません。
例えば、担任が生徒を指導した際に、保護者から「指導の仕方に問題がある。担任は文書で事実を報告し、謝罪の言葉を示してほしい」などと文書による回答を要求されることはよくあります。
この場合、担任が保護者に対して文書で回答する法的義務は一切ありません。そのため、当然に拒否して口頭で回答すればよいのですが、今度は口頭で説明する際に保護者が「録音させてほしい」と要求する場合もよくあります。この場合も担任に録音を認める法的義務は一切ありません。
しかし、保護者が秘密に録音していたらどうでしょうか。実は、民事裁判では秘密に録音された音声データも証拠として利用できるのです。
仮に文書での回答を拒否して口頭で回答したとしても、その際のやり取りが保護者に秘密録音されていれば、裁判で不利になるおそれもあります。
そのため、客観的に明らかな事実の経過の記載に限定して文書で回答するのであれば、かえって秘密録音されるよりもリスクが少ない場合もあります。
例えば、教員の過失や謝罪を示す言葉を含む文書で回答することは、体罰があったことが証拠や証言などから明確に認定できる場合などのように、教員に過失が明らかに存在する場合でない限りできませんが、中立的な事実の経緯を淡々と記した文書で回答するのであれば、争点の整理にもなることから紛争の長期化を避けられる可能性もあります。
保護者対応はなぜ難しいのか
教員も保護者も社会人です。一般人同士なら許されないが、教員や保護者の間なら許される行為はほとんどありません。
例えば、保護者の要求内容が妥当だとしても、校長室に押しかけて土下座を強要したり、暴力をふるうことは犯罪です。また、長時間にわたり電話をかけることも業務妨害罪が成立し得ます。このような反社会性を有する行為は学校が対応するのではなく、証拠をしっかり得た上で警察に対応してもらうことが大切です。
また、給食費や教材費などが払えるにもかかわらず払わない保護者も民事上は債務不履行であり、違法ですし、真面目に費用を支払っている保護者との関係では絶対に放置してはいけません。そのため、督促などの法的措置を検討する必要があります。
しかし、問題は、子どもは保護者を選択できる立場にないということです。たとえ保護者の行動に問題があったとしても、子どもは好きでそのような保護者の子どもとして生まれてきたわけではありません。このことが学校現場の法律問題の特徴であり、弁護士の法律論の思考だけでは解決が難しいのです。
仮に、保護者の行動で子どもが不利益を受けるのであれば、それは親権の濫用です。しかし、子どものために教員が親権者になることはできません。保護者対応が法的にも難しいのは、たとえ理不尽なクレームをする保護者であっても、その背後には保護者を自由に選べない子どもが存在する点にあると言っても過言ではないのです。
弁護士が保護者対応を担うべきか
子どもは保護者だけでなく、担任も選べません。保護者も担任を選べません。そして、担任もまた子どもや保護者を選べません。どんな子どもや保護者が担任クラスに存在するかによって担任の負担は大きく変わるので、運次第です。教員と保護者の関係は、こうした特殊な関係です。
また、保護者対応の負担が増えたからといって、理不尽なクレームをする保護者が増えたというわけではありません。ほとんどの保護者は教員と信頼関係を築いており、理不尽なクレームをする保護者はごく一部だからです。
確かに、保護者の理不尽なクレームに対して、スクールロイヤーが法的な視点から毅然と対応するように助言することは一定の効果があるのかもしれませんが、学術的に検証されているわけではありません。日々子どもや保護者と接している教員よりも、司法試験に合格しただけで社会経験に乏しい弁護士が的確に保護者に対応できる保証などどこにもないのです。
ですので、私自身は弁護士が保護者対応を担うのではなく、教員自身が保護者対応のスキルを磨いていくほうが望ましいと考えています。
教員として学校で勤務していると、保護者対応の上手な先生から学んだり、教えてもらうことはたくさんあります。例えば、私も保護者対応の上手な先生から、保護者会の機会に短時間で頑張って保護者の顔と名前をできるだけ多く覚えることを教えてもらいました。
担任からすれば、毎日会う子どもと違って保護者は滅多に会わないので、顔と名前を覚えて次に会った時に呼び掛けるとそれだけで信頼関係が築けたりします。
また、保護者に対して毅然と対応するだけではなく、気持ちをちゃんと伝えるスキルを学ぶことも大切です。担任するクラスの全ての子どもに対して責任を負う教員の気持ちと、自分の子どもだけに責任を負う保護者の気持ちは全く違うため、教員の気持ちをちゃんと伝えなければ平行線になってしまうからです。
このように、保護者対応の上手な先生から教えてもらうことは、弁護士の研修講演を聞くよりもよほど役に立ちます。
教員は教育のプロであり、同時に保護者対応のプロでもあるという意識を持って、保護者との適切な関係を築いていくことが、結果として法的にも正しくなると思います。
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(この記事は教職員共済だより178号(2021年4月発行)に掲載されたものを再掲載しています)

