学校で事故が起こったら

2026年7月6日

国内でただひとり、現役の教師でありながら弁護士としても活動している神内聡さん。
「実例から学ぶ学校現場のトラブル解決」2回目の今回は、学校で事故が起こった際にどのように対応したらよいかについて具体的に解説します。

事故が起こってしまったら

学校でケガ等を伴う事故が起きた場合、まず何よりも優先すべきことは、児童・生徒の治療であることは言うまでもありません。
しかし、保健室での治療で済む程度のケガであればともかく、そうでない場合は病院に搬送する必要があります。その際には、まず救急車を要請するかどうかの判断が必要になります。

救急車を要請する基準としては、消防庁が策定している「救急車利用リーフレット」が参考になります。また、法的には「できる限り早く」要請する必要があります。

応急措置の1つとして、AEDが必要な場合もあります。現在は教職員に対してAEDの使用講習が広く行われていますので、必要な場合は躊躇せずに使用しましょう。

 

学校で事故が起きた場合にもう1つ重要なことは、保護者への連絡です。
学校が控えている保護者の緊急連絡先にすぐ連絡し、病院への搬送に同行してもらうか、無理な場合は病院に同行した教職員と現地で合流してもらいましょう。
保護者の仕事や家庭環境によっては、病院に合流できない場合もあります。その場合はあとで教職員に余計な法的リスクを負わせないために、なぜ病院に来られないかという理由をしっかり記録しておきましょう。

保護者が病院に合流できない場合は、教職員が医師からケガ等の状況に関する正確な情報を聞いて記録しておく必要があります。そして、できる限り早く保護者に正確に伝えます。できれば保健室での対応や病院で伝えられたことなどを、メモ書きでもよいので文書にして保護者に渡しておけば、「言った」「言わない」のトラブルを防止できます。

なお、学校は事故発生時の対応について、あらかじめ「危険等発生時対処要領」を作成する義務があり(学校保健安全法29条)、初期対応は原則として作成した危険等発生時対処要領に基づいて対応します。

 

学校事故の法的責任

学校事故が起きた際に、教職員に法的責任があるかどうかは、「過失」「因果関係」「損害の発生」の3つで判断されます。
過失については、柔道やプールなどのように、事故が起きた教育活動に元々事故が生じる危険性が内在しているものについては、注意義務の程度が高くなります。

 

過酷な責任を負わされる教職員

日本の裁判所は、体育の授業中の事故と部活動の朝練中の事故を全く同じ論理で裁きます。
しかし、前者は正規の教育課程であり、担当教員も体育の教員免許を持っていますが、後者は生徒が自主的に行う教育課程外の活動であり、しかも教員の勤務時間外の活動である上、顧問教員は必ずしも当該部活動の専門知識や指導経験があるわけではありません。
にもかかわらず、裁判所が両者を同じ論理で裁けば、当然教員は過酷な法的責任を負わされることになりますが、これは法論理として明らかに間違っています。

また、柔道やプールなどのように、事故が生じる危険性が非常に高い活動をそもそも学校の教育活動でやること自体も議論しなければなりません。
国がそのような危険性の高い活動を学校で行わせておいて、いざ事故が発生すると教職員に過酷な法的責任を負わせるというのはあまりに理不尽です。

このように、学校事故が起きた際に、日本の裁判所や文部科学省が教職員に対して極めて過酷な法的責任を負わせている問題点をしっかり議論する必要があるでしょう。

 

災害共済給付とは

学校事故が起きた時の治療費は、日本スポーツ振興センターの災害共済給付で補填されます。
この制度は任意加入ですが、ほとんどの学校設置者が加入し、保護者がこれに同意して掛金を共同負担しています(とはいえ、小中学校でも数千人ほど同意していない保護者が存在していますので、注意が必要です)。

災害共済給付は過失や因果関係が不明確でも給付され、登下校中の事故などでも給付されます。
また、治療費について給付される金額は、医療費の自己負担割合が10分の3である場合は、保護者に給付される金額のほうが多くなります。

学校事故が起きた際には、保護者は治療費を負担することで感情的になっている場合もありますが、災害共済給付で補填される可能性が高いことを一言説明しておけば、感情が和らぐこともあります。
しかし、特別損害や慰謝料などは補填されないため、後日当事者が裁判で争う可能性があり、場合によっては学校も損害賠償責任を追及されます。

 

保護者が災害共済給付を請求する場合には、学校が作成する災害報告書が必要になります。
災害報告書は、学校事故が後日裁判で争われた際に重要な証拠として機能することも多いため、そのことを憂慮して学校が報告書の作成を渋ることが見受けられますが、災害報告書は過失や因果関係などを証明するために作成するものではないので、教職員の不注意など、過失や因果関係に関係する事実を書く必要はありません(時間、場所、傷害・疾病の内容など、請求に必要な事実を記載すればよいです)。
そのため、学校が災害報告書の作成を渋ることで被害者と対立してしまうことは避けたほうがよいでしょう。

 

『教職員賠償』は業務中の賠償事故を補償するから安心!
教職員共済の総合共済

 

(この記事は教職員共済だより174号(2020年4月発行)に掲載されたものを再掲載しています)

著者プロフィール

本郷さくら総合法律事務所代表弁護士/兵庫教育大学大学院教授 神内聡

本郷さくら総合法律事務所代表弁護士/兵庫教育大学大学院教授 神内聡

1978年香川県高松市生まれ。東京大学法学部卒業。同大学院教育学研究科修了。
現在は弁護士、大学院教授を務めながら、東京都内の中高一貫校で社会科教諭としても勤務。
著作に『スクールロイヤー 学校現場の事例で学ぶ教育紛争実務Q&A170』『学校弁護士 スクールロイヤーが見た教育現場』など。ドラマ「やけに弁のたつ弁護士が学校でほえる」「僕達はまだその星の校則を知らない」でスクールロイヤー考証を担当。