小児の生活習慣病は内臓脂肪型肥満が代表選手
厚生労働省が『成人病』といわれていた呼び名を『生活習慣病』と改めたのは、その中心となる病態である肥満について疾病概念を導入することで、「生活習慣を改善することにより疾病予防に努めよう」ということを広めることが意図されています。
生活習慣は、小児期にその基礎が身につくため、家庭教育や学校教育などを通して小児期から生涯を通じた健康教育が推進されることが期待されています。
生活習慣病は、肥満症・高血圧症、糖尿病、メタボリックシンドロームなどですが、小児では主に肥満、特に内臓脂肪が蓄積した肥満(内臓脂肪型肥満)が問題になります。今回は、これを中心にお話します。
内臓脂肪の蓄積によるメタボリックシンドロームは、動脈硬化と深くかかわることが知られていて、その動脈硬化の初期病変が小児でも見つかってきています。
そこで、小児期からの生活習慣をよくすることが最も重要となります。
生活習慣には、食習慣・運動習慣・睡眠習慣があり、健康な生活習慣とは、文部科学省が2006年に提唱している「早寝早起き朝ごはん」が基本となります。
それでは、小児の不健康な生活習慣とはどのようなことを指すのでしょうか。以下に具体例を挙げてみましょう。
食習慣
過食・早食いは満腹以上に摂取してしまうためよくありません。
ながら食い・まとめ食い・不規則な食事時間・就寝前の食事も、摂取過剰のみならず、摂食に引き続き起こる生理的な代謝反応、例えばインスリン分泌の遅滞によって脂肪合成が促進され、悪影響を及ぼします。
運動習慣
適度な運動が不足すると、消費エネルギーが減少するだけでなく、膵臓から分泌しているインスリンが、筋肉や脂肪にじゅうぶん作用せず、脂肪蓄積が促進されます。
睡眠習慣
夜更かしをすることで朝起きることができずに、朝食を抜いたり、時間が間に合わないということで早食いや食事の流し込みにつながったりします。
また遅くまで起きていることで、おなかが空き、夜食を食べることにつながります。
小児メタボリックシンドロームのケアと治療
メタボリックシンドロームを肥満、そして内臓脂肪の蓄積から始まる負の連鎖と見ると、その基本的な治療方法は、肥満に導く生活習慣を改善することに尽きます。
小児のメタボリックシンドロームの基準(表1)に当てはまってしまった場合、次のようなケアと治療が必要になります。
1)腹囲 | 80cm以上(小学生は75cm以上) |
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2)中性脂肪 | 120mg/dl かつ/または HDL コレステロール40mg/dl未満 |
3) 収縮期血圧 | 125mmHg以上かつ/または 拡張期血圧 70mmHg 以上 |
4)空腹時血糖 | 100mg/dl以上 |
腹囲/身長比が0.5以上 | |
内臓脂肪面積 60㎠以上(成人では100㎠以上) |
1.食事療法
食事療法を小児に実施するときに配慮すべきことは、指導内容が成長と発達を阻害してはならないということです。
一律に指導できるものではないですが、継続できるように短期的のみならず長期的な視点からの立案計画が必要です。
摂取エネルギーでは、肥満小児の場合しばしば身長が高いので、年齢よりも身長がどの年齢群の基準体重に相当するのかをみて、エネルギー量を決めます。
中等度以上の肥満(30%以上)では摂取エネルギーの10%程度、軽度肥満(20%以上30%未満)では5%減らします。
各食事への配分では、夕食への配分を少なくするのが理想的ですが、現実的ではありません。学童期では基本的に間食は避けたほうがよいのですが、食べる場合は、一日のエネルギーの10%以内とします。
三大栄養素の配分比は議論が多いところですが、炭水化物摂取の低減が重要となります。
炭水化物50~55%、タンパク質15~20%、脂質25~30%が理想です。
どちらかというと肉や乳由来の動物性脂質に頼らず魚を摂取し、植物性油で調理するようにしましょう。
三大栄養素以外では、カルシウムや鉄、ビタミン類の摂取に気をつけます。
食事と適度な間食以外の飲食物は、清涼飲料水を含めて取らせないように、冷蔵庫や目につく場所に飲食物を置かない、さらに買い置きをしないことが大切です。
食事は多めに作らず、余計なおかわりをさせない。ご褒美として、あるいはご機嫌をとるために、お菓子を与えることはやめましょう。
食事の摂り方としてまず指導することは、「ゆっくりと食べる」ことです。
早食いをさせない。
食べ物を一口、口に入れたらはしを置かせる。
食事は小皿に分けて盛る。
茶碗を小さくする。
よく噛むことを心がけさせます。
また食卓には、家族が揃って食事をとることが重要で、子どもだけの食事やひとりでの食事は、早食いや食べ過ぎのバランスの乱れにつながります。
2.運動療法
もう一つの治療法として、運動療法があります。
発育期であるため、食事制限は控えめにして、計画された運動療法により消費エネルギーを増大させます。
肥満解消のための運動は、体脂肪の燃焼を主目的とすることから、脂質代謝を促すために有酸素的運動をできれば30分程度継続します。
強度としては、心拍数が120~140拍/分になる程度で、ほんのり汗をかくくらいがよいでしょう。
いきなり強い運動をすると、長続きしませんし、肥満の体には負担となることもあるので注意が必要です。
週に最低2~3回できるようになれば、習慣的に毎日できるようにしていきます。
運動療法を2~3か月継続して行うことで、効果が現れてきます。
大きな負担がかからず、酸素を十分に取り入れることができる有酸素的運動としては、ウォーキング、軽いジョギング、水泳、自転車こぎ。また、ドッジボールや鬼ごっこなども有効です。
mini column 小児のメタボリックシンドロームにはどんな異常がみられるか?
内臓脂肪の蓄積 | 腹囲は内臓脂肪の量を知る簡便な方法です。身長比が0.5以上となると、小児メタボリックシンドロームと診断されます。 |
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脂質異常 | 内臓脂肪の増加に伴う脂質異常は、中性脂肪やLDLコレステロールの数値を上げ、一方で善玉コレステロールであるHDLコレステロールの数値を低下させることから、動脈硬化の危険因子となります。 |
血圧の異常 | 小児肥満でも血圧上昇による臓器障害は、既に始まっていると言われています。 |
血糖値の異常 | インスリンは血糖を下げる作用を持っているのですが、内臓脂肪の蓄積に伴って、肝臓および筋細胞でのインスリン抵抗性増大が起こり、高インスリン血症とともに血糖値の上昇へつながります。 |
血管病変 | 総頚動脈超音波検査で血管を評価したデータから、小児でも過剰な内臓脂肪蓄積は、動脈硬化を加速させることが明らかになっています。 |
指導:キッズクリニック川口前川 院長 新実 了先生