子どもへの虐待とは
保護者(親権者および後見人で、現に監護する者)がその監護する児童(18歳に満たない者)について行う以下のような行為をいいます。
1. 身体的虐待
児童の身体に外傷が生じ、または生じる恐れのある暴行を加えることです。
首を絞める、殴る、蹴る、投げ落とす、熱湯をかける、布団蒸しにする、風呂で溺れさせる、逆さつりにする、異物を口に入れる、冬場に長時間放り出すなどがあり、生命に関わる危険な行為です。
2. 性的虐待
児童にわいせつな行為をすること、または児童にわいせつな行為をさせることです。
一般的に表面化しにくい特徴があります。
3. ネグレクト
児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食または長時間の放置、保護者以外の同居人による児童の身体的虐待及び心理的虐待の放置、その他、保護者としての監護を著しく怠ることです。
家に閉じ込める、学校に行かせない、治療が必要な状態でも病院に連れて行かない、適切な食事を与えない、下着など長時間不潔なままにする、極端に不潔な環境で生活させるなどがあり、死亡につながる危機的な状況も生まれます。
4. 心理的虐待
児童に対する著しい暴言または著しく拒絶的な対応、児童が同居する家庭における配偶者への暴力、その他、児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うことです。
言葉による脅し、大声での罵倒・罵声、自尊心を傷つける言動、無視する、心を傷つけることを繰り返し言う、きょうだい間で差別的な扱いをするなどです。
見逃すな虐待のサイン
多忙な日常の業務の中で、虐待のサインに気づくのは大変なことですが、ここでキーワードとなるのが「不自然さ」です。
子どもに関わる皆さんは、同時に家族にも出会っています。ふと不自然さに気づく時、それが早期発見の糸口です。親子が示す「不自然さ」に気づくことで発見のタイミングは早くなります。不自然なケガ、不自然な説明、不自然な表情、不自然な行動・関係などです。
虐待を受けている子どもはさまざまなサインを発します。
彼らは保護者からの愛情を十分受けることができないので、反動として、学校で反抗的な態度を見せたり、わがままを言ったり、逆に極端に甘えたりするなど、皆さんを試すことがあります。これらが虐待を受けている子どものサインであることがあります。
始業時の観察でも気づくこともあります。
普段みられない様子が観察されたとき、例えば泣いている、元気がない、乱暴、教室に入りたがらないなどです。また、連絡なく欠席している時なども要注意です。
虐待と不慮の事故による外傷をどう見分けたらよい?
入学時健康診断や定期健康診断は、体の傷を目視できる数少ない場面で、虐待に気づくひとつの機会です。
身体的虐待と不慮の事故による外傷とを見分けるポイントは、外傷の部位です。
基本的には、不慮の事故による外傷は骨ばっているところ、例えば、額・鼻・顎・肘・膝など皮膚の直下に骨があって脂肪組織が少ない場所に生じやすく、児童虐待による外傷は臀部や大腿内側などの脂肪組織が豊富で柔らかいところ、頚部や腋窩などの引っ込んでいるところ、外陰部などの隠れているところに起こりやすいものです(下図参照)。
余談ですが、病院での診療では今骨折した所とは別に、治癒過程の骨折痕を発見することがあります。
特に乳児の骨折または骨折痕は虐待が疑われます。これは、乳児の骨は柔らかく、よほどのことがない限り折れることは少ないからです。
外傷を見て虐待を疑った時は、既に介入レベルであると考えます。
どこへ相談したらいいの?
虐待が疑われた時、ひとりで抱え込むのは禁物です。子どもの虐待への取り組みの基本は「自分のできる役割を果たした上で、決してひとりで抱え込まない」ことです。
そのためには子どもと家族に関わるすべての職種、機関、人々がネットワークの一因となる事が不可欠です。
まずは子どものことをよく知っている養護教諭・前担任・校長・教頭・学校主任・同じ学年の担任教師仲間に相談してください。
情報を出し合い、虐待の疑いが強いと判断されたら市町村の虐待相談窓口、または児童相談所へ連絡します。
mini column 乳幼児揺さぶられ症候群って何?
親などの養育者が子どものことでイライラしたり、腹を立てたりした時に、乳幼児を激しく揺さぶってしまうことで発生する乳幼児の頭部損傷です。子どもが泣き止まないことに起因することが多いとされています。
<特徴>
(1)網膜出血
(2)硬膜下出血またはクモ膜下出血などの頭蓋内出血
(3)体表の外傷が軽微、またはない
乳幼児の身体的特徴として、頭部が相対的に大きく重い、頚部の力が弱い、クモ膜下腔が大きいことなどが挙げられます。
速く強く揺さぶられると、頭蓋骨の内側に脳が何度も打ち付けられ、脳が損傷をうけたり、頭蓋内出血を起こしたりします。その結果、視力や知能に障害が起きたり、中には命を落としたりすることもあります。
ただし、赤ちゃんをあやす程度に揺さぶる程度では発症しませんので、必要以上に恐れることはありません。
指導:キッズクリニック川口前川 院長 新実 了先生