原因・症状と治療方法
ウイルス性の腸炎は食事を介した食中毒も起こしますが、接触や飛沫によって感染することもあり、細菌とは違った注意も必要です。子どもが冬季に注意しなくてはいけない胃腸炎は、ノロウイルスとロタウイルスによるもので、食中毒を起こすものとしてはノロウイルスが要注意です。
昔から、二枚貝を食べて食中毒を起こす事例が、数多く報告されています。冬においしいカキもその一つです。
ノロウイルスの潜伏期間は12時間から2日。上腹部のムカムカ感・吐き気・嘔吐・下痢が60~80%にみられ、多くは嘔吐から下痢になります。腹痛が50%、頭痛・発熱・寒気が20~30%にみられますが、あまり高熱(38℃以上)が出ることはありません。
症状の持続期間は1~2日です。
治療薬はなく、臨床症状や脱水症状に応じた点滴や、経口補液を行います。
注意すべき点として、症状は治まっても、少量のウイルスは3週間ほど排泄され続けますから、安心はできません。
怖い集団発生
ノロウイルスの食品汚染経路は、次の2通りです。
- 患者の便などに付着するウイルスが下水を通って海域に達し、カキなどの二枚貝に蓄積される場合
- ノロウイルスに感染した調理従事者などの手を介して直接的にあるいは、調理器具、調理環境などを介して間接的に食品が二次感染を受ける場合
これらのものを摂取することで集団発生します。
急性期の嘔吐物や糞便には多くのウイルス(1g中に数千万~数億個)が含まれています。
ノロウイルスは1g中に数個~100個のウイルスが存在すれば発症するほど感染力が強いので、ごく微量でも口に入ると発病する可能性があります。
ノロウイルスによる食中毒や感染の経路は、ほとんどが経口感染によるものです。また、人の腸管内のみで増殖し、自然界や食品中では増殖しないという特徴を持っています。
しかし、冒頭にも述べたように、このウイルスの強い感染性を象徴するものとして、例えば嘔吐物などが乾燥し浮遊することでも感染します。そのため適切な消毒がなされていないと、嘔吐場所を通った時に舞い上がったウイルスを吸い込むことで、集団発生することもあります。
感染予防と消毒方法
ノロウイルスがとても厄介なのは、酸や消毒用アルコール、乾燥に強いということです。
60℃で30分間加熱しても死滅しません。このためリスクのある食品、特に二枚貝の調理は、中心温度が85℃になるような状態で1分以上加熱しましょう。
生食用ではない殻付きのカキやむき身は、絶対に生で食べないようにしてください。
生の二枚貝はできるだけ最後に調理し、取扱った包丁、まな板、布巾などの調理器具類は、よく洗ってください。
消毒はアルコールが効かないため、台所用塩素系漂白剤(塩素系の次亜塩素酸ナトリウム)を0.02%(=200ppm)に薄めて消毒します。ただし効果があるからといって、漂白剤を使って手や指など身体の消毒をすることは絶対に止めてください。
台所用塩素系漂白剤(キッチンハイターなど)は通常6%なので1ℓのペットボトルにペットボトルのキャップ1杯がおおよその目安となります。
嘔吐物や排泄物そのものを消毒するときは0.1%(=1000ppm)が必要です。目安は500mℓのペットボトルにキャップ2杯の家庭用塩素系漂白剤で作ります。
汚物がついた衣類やシーツ類は、塩素系消毒液に30分つけるか、熱湯につけた後、通常通り洗濯をします。衣類・シーツ・絨毯などは消毒後にスチームアイロンで熱処理を行うと効果的です。
飛沫による感染を防ぐ意味でも、嘔吐した場所の消毒が済んだら換気も合わせて行うことも忘れずに。
私たちが感染症予防や日ごろの健康管理で心がけるべき最も重要なことは、手洗い、うがいの励行です。
帰宅時や食事前などには家族全員で流水や石鹸による手洗いをしっかり行いましょう。その際は、水ではなくお湯で行うことがポイントです。
汚物の処理方法
- 汚物を処理する時は、使い捨ての手袋とマスクを着用する
- 汚物はペーパータオル等で取り除き、二重にしたビニール袋に入れる
- 汚物が付着していた箇所に0.1%に薄めた次亜塩素酸ナトリウム液を染み込ませたペーパータオル等で覆うか浸すように拭き、10分程度おいてから水拭きする
この場合、汚染場所を広げないように注意し、モップは使用しない - ウイルスは乾燥すると空気中に漂い、経口感染の元となるので、汚物を乾燥させない
- カーペットの消毒にはスチームアイロンによる加熱が有効。1カ所あたり2分程度加熱する
次亜塩素酸ナトリウム液を使うと感染拡大を防げるが、カーペットの変色に注意
mini column ノロウイルスより怖いロタウイルス
ノロウイルスと似たものにロタウイルスがあります。
冬季乳児下痢症とか白色便下痢症と呼ばれる、主に5歳未満の乳幼児でよくみられる嘔吐下痢症を引き起こし、便が灰白色となることがあることから、仮性小児コレラとも言われていました。
時に重篤な胃腸炎を引き起こし、高度の脱水状態になることがあるため、入院が必要となることも少なくありません。また、電解質異常がなくても痙攣や中枢神経症状を起こすことがあり、発展途上国では、ひどい脱水症状で死亡する例さえあります。
予防法には、ノロウイルスと違ってワクチンがあります。現在、2つの経口生ワクチンが認可され、任意接種として6か月未満の乳児に行われています。
痙攣などの神経症状の予防はできませんが、入院が必要な重い胃腸炎症状へ移行することを予防するには、とても有効です。早く定期接種になって欲しいものの一つです。
指導:キッズクリニック川口前川 院長 新実 了先生