行楽シーズンを前に食中毒に注意

2016年9月1日

本格的な行楽シーズンの到来とともに、野外でスポーツやレジャーを楽しむ機会が増えてきます。お弁当やキャンプでのバーベキューも楽しみの一つ。でも、細菌性の食中毒にご注意。楽しいはずの行楽シーズンが嫌な思い出にならないようにしたいものですね。

細菌性の食中毒へ主役交代

気温が低く乾燥する冬は、ノロウイルスなどのウイルス性の食中毒が流行しますが、気温が上昇し、多湿になるとともに主役交代。細菌性の食中毒が主流となります。
細菌性食中毒は、食品とともに経口摂取した細菌が体内で増殖して発症する「感染型」と、細菌が食品中で産生した毒素を摂取することで発症する「毒素型」に分類されます。
感染型の中には、腸管出血性大腸菌O-111やO-157などのように、生体内で毒素を産生するものを別に扱って、「生体内毒素型」として分類することもあります。

以前の医学常識では、菌が大量に口から入ることが、食中毒発症の条件とされてきました。しかし、腸管出血性大腸菌O-157やサルモネラ菌、キャンピロバクターのように少量付着したものを経口摂取するだけでも発症する菌があるので注意が必要です。

慌てず冷静に

食中毒のほとんどは、直接人から人ではなく、食事を介し、食品で増殖した菌を摂取することで発症します。通常は、食事を共にした2人以上が、吐き気・嘔吐・腹痛・下痢などの消化器症状あるいは神経症状を発症した場合に食中毒を疑います。

食中毒を発症した場合、特に小児の胃腸炎で注意すべきことは脱水ですが、嘔吐時は慌ててすぐに水を飲ませたりせず、一時間くらい様子を見て嘔吐が落ちついていたら、一口ずつ水分を摂らせるようにしましょう。慌てないことが肝要です。また、症状がでたら早めに医療機関を受診しましょう。

食中毒の主な原因細菌

ブドウ球菌

皮膚などいろいろなところに存在し、おにぎりや弁当などにも付着することがあります。
エンテロトキシンという毒素によって吐き気、嘔吐、腹痛、下痢といった症状が出ます。毒素で引き起こされるため、摂取後1~3時間で発症します。毒素は強力で、100℃で30分加熱しても無毒化されません。

サルモネラ菌

卵などに付着していることがあり、高熱、腹痛、下痢、血便など強い症状が出ることがあります。時に血液に入り、敗血症なども起こすことがあります。少量でも感染し、潜伏期間は12~36時間です。

キャンピロバクター

生の鶏肉などについていることがあり、少量でも感染します。キャンプやバーベキューなどでの生焼けの肉なども要注意。しっかり中まで火を通すようにしましょう。
潜伏期間は2~10日で、腹痛と下痢、血便などが出ます。

潜伏期間が長いので、原因菌として気づかれないことがあります。また、ギラン・バレー症候群(手足がマヒしたり、呼吸が出来なくなって息苦しくなったりする)を引き起こすことも知られています。

腸管出血性大腸菌O-111やO-157

菌量が少量でも感染します。潜伏期間は2~8日で、血便・下痢・腹痛が主症状です。
ベロ毒素を体内で産生し、これにより溶血性尿毒症症候群を引き起こし脳症(けいれんや意識障害)や腎不全などの合併症を起こす原因となります。

腸炎ビブリオ

海にも生息し塩水に強く、真水や酸に弱い菌であるため、生の魚介類に多く見られます。
嘔吐・腹痛・下痢が多く、潜伏期間は6~12時間です。60℃、10分の加熱で死滅します。

食中毒菌を「付けない、増やさない、やっつける」

食中毒は、食中毒菌を「付けない、増やさない、やっつける」の三原則で予防しましょう

予防のポイント
食品購入 新鮮なもの、消費期限を確認する
保存 持ち帰ったらすぐ冷蔵庫や冷凍庫で保存する
下調理 手を洗う、きれいな調理器具を使う
調理 手を洗う、十分に加熱する(75℃、1分以上)
食事 手を洗う、室温に長く放置しない
残った食品 きれいな器具容器で保存する、再加熱する

mini column 菌は死んでも毒素は残る

感染性食中毒のほとんどは、食品の加熱によって防ぐことができます。
しかし、注意しなくてはならない点は、耐熱性の毒素や芽胞(厳しい環境でも耐えられる形態)が存在することです。黄色ブドウ球菌が出す耐熱性のエンテロトキシンは、食品を加熱しても毒素は分解しません。「菌は死んでも毒素は残る」ことが特徴です。
米や小麦に付着しているセレウス菌は、芽胞となって長期にわたり生存し、加熱調理後でも生き残り、増殖して食中毒を起こします。
一方、牛乳、乳製品、食肉などに付着するエルシニア菌は0~4℃という低温でも増殖可能で、冷蔵庫内でも増殖して食中毒を起こします。
こうしたことからもわかるように、加熱や冷蔵庫での保存を過信してはいけません。

指導:キッズクリニック川口前川 院長 新実 了先生