組織的に取り組む効果的なバーンアウト対策

2016年5月25日

バーンアウトを軽減するには、組織的な対策が大切です。
最終回となる今回は、教頭職の方々のアンケート調査結果より効果的なバーンアウト対策を探ります。

チームで取り組む「協働」が効果的

今回は、教職員のバーンアウトを軽減するための組織的な対策について、調査結果を交えながら解説します。

調査は、組織のまとめ役、支え役として重要な役割を担っている教頭職の方々に、「教職員のバーンアウトを軽減するための対策として、今まであなたが学校組織として取り組んだことで、効果的だったもの」を自由記述で回答いただきました。

教職員のバーンアウト軽減に対して効果的だった組織的取り組み

分類内容 回答数 全回答に
占める割合
1 仕事の成果を上げる工夫 25 26.32%
2 職員のそれぞれの良さを認める 20 21.05%
3 職場内の円滑な人間関係づくり 15 15.79%
4 管理職がしっかりとみて話を聴く 14 14.74%
5 労務環境の整備 11 11.58%

一番多く挙げられたのが、「仕事の成果を上げる工夫」です。
その回答に付随して「チームで対応する」ことも挙げられ、教職員のメンタルヘルスの悪化を防ぐには組織的に対応することが一番効果的という結果となりました。

たとえば、行事や研究にかかわるプロジェクトに対しても、生徒指導のトラブルに対しても、チームで共有して話し合い、対応することが必要であり、責任や苦労を一人の先生に集中させないようにすることが大切です。
すなわち「協働」が重要であるという回答が多く得られています。

「協働」に取り組むと業務が円滑に進み、教職員の方々の気持ちにもゆとりが生じます。それが子どもたちをよりよい方向に導くことになり、保護者の理解も得られやすくなります。
この循環が教職員のメンタルヘルスの特効薬になると考えられます。

チームでの援助は、実際には時間も手間もかかり、回り道のように思われるかもしれませんが、複雑な背景をもち、多様な要因が絡んでいるケースが増えてきている昨今では、実は効果的なのではないでしょうか。

「一人で遂行できないのは自分の力不足」という誤った認識を捨て、それぞれの得意分野を生かして協働するほうが、はるかに効果的であることを、管理職はもとより個々の教職員が理解する必要があると思います。

学校の組織には管理職が少なく、鍋ぶた型の組織であり、「ラインによるメンタルヘルスのケアが行いにくい」と言われています。また、ほかの対人援助職と比べても、教職員という職は、「被援助指向性(他者からのサポートを求める気持ち)が低い」ということが言われています。
このような組織において、チームで援助を行うためには、学校規模にもよりますが、プロジェクトやトラブルに応じた細やかな組織をつくり、学年主任や生徒指導主事など、それぞれの組織に応じたリーダーとなる存在を適切に配置することが重要になります。

適切に組織を動かすリーダーシップはもちろん、一人ひとりの役割分担を決めるコーディネーター的な役割も必要になってきます。
たとえば若い人の一生懸命なエネルギーに、中堅のリーダーシップ、ベテランのコーディネート能力など、それぞれの持ち味を出し合い、それぞれが自分の役割を自覚して動くことが大事になってくるのではないでしょうか。

チームでの役割 適材適所を見極める

調査結果の「職員のそれぞれの良さを認める」についても、多くの回答が見られました。

教職員が互いの良さを賞賛し合ったり、頑張りを認め合ったりすれば、やりがいを感じながら仕事に従事できるようになります。その一方で、チームで動くと、ともすれば不満が出てきます。チームメンバーの嫌な面をみると、不満が高まり、ストレスは強くなっていきます。
どんな子どもにも良さがあるように、教職員にもそれぞれの良さがあります。
良い点を見つけて、その先生にやりがいをもって働いてもらうことが大事ではないでしょうか。

不満がたまりすぎて人間関係が悪くなる前に、要望を周囲に伝えたり、上に立つ人が声をかけたりするなど、協働するための潤滑油のような動きも重要です。
そういう意味でも校務分掌の配慮も含めて、その人にあった業務ができるような適材適所の配置がとても大切になってきます。

円滑な人間関係が予防策

調査結果の中で3番目に多かった「職場内の円滑な人間関係づくり」という回答や、その次の「管理職がしっかりとみて話を聴く」という回答から、管理職のメンタルヘルス対策への意識が高くなってきていることがわかります。

良好な職場環境をつくり、相談しやすい雰囲気を保つことは、メンタルヘルス対策における早期発見(一次予防)や早期対応(二次予防)につながると言えるでしょう。
ただ、文科省も指摘しているように、メンタルヘルス対策の新たな取り組みにより、管理職に過重な負担がかからないように、主幹教諭や指導教諭等の配置によるラインケア体制の整備や管理職の業務を減らすことも求められると思います。

また、今回の調査では、保護者や地域住民の好意的な声を積極的に紹介したり、周りからの感謝の言葉を届けたりしながら、成就感、充実感につなげる取り組みも紹介されています。
一人ひとりの頑張りを認め、声を掛け合い、個々のやる気を引き出すという視点が「協働」における重要な視点です。
「業務が激務でも、教職員が元気なのは同僚や管理職との関係が良いから」という意見があり、そのおかげで、夜遅くまでの対応や土日の指導なども頑張れるようです。

ただし、個々の頑張り、気力だけにずっと頼り続けるわけにはいかないのも事実です。
「業務の精選や焦点化」は児童・生徒たちのために頑張る教職員の方々にとってはなじみにくい部分があるかもしれませんが、労務環境の整備という視点を少しずつでも取り入れていく必要もあるでしょう。

社会全体で考えたいメンタルヘルス

最後に挙げられた、勤務時間の短縮などの「労務環境の整備」は、全体の10%程度でした。

会議の精選、勤務時間の短縮、管理など、現場レベルでも解消できるように取り組む必要があります。しかし、これらは学校だけで行えることではなく、教育委員会や文科省など、行政側主導で対策を進める必要もあるでしょう。

最後になりますが、何か問題が生じたときに過剰な対応を求めるマスコミや世論の風潮も、教師のメンタルヘルスに大きな影響を及ぼしていると言えます。
「社会全体」という大きな組織で、「児童・生徒のためにどうすべきなのか」を考えるべきと痛感しています。

引用文献

宮下敏恵『小・学校教師におけるバーンアウト低減のための組織的取り組みに関する検討』上越教育大学研究紀要、32,211-218. (2013)

著者プロフィール

上越教育大学学校教育研究科教授、博士(人間科学) 宮下敏恵

上越教育大学学校教育研究科教授、博士(人間科学) 宮下敏恵

1991年早稲田大学人間科学部人間健康科学科卒業、1994年早稲田大学大学院文学研究科修士課程心理学専攻修了、1998年早稲田大学大学院人間科学研究科博士課程健康科学専攻修了、早稲田大学人間科学部助手、上越教育大学学校教育学部講師を経て、現職。 1997年4月財団法人日本臨床心理士資格認定協会認定臨床心理士(登録番号第6631号)資格取得、2001年10月 日本教育心理学会認定学校心理士資格取得。