「バーンアウト」になる前に

2015年5月20日

バーンアウトに陥る人には、まず予兆が見られます。その予兆は、小・中学校の先生で異なる結果が得られました。その違いとは?

バーンアウトの「予兆」を知る

今回はバーンアウトに陥る前の「予兆」についてお話ししたいと思います。

バーンアウトの早期発見のための手がかりとして、多くの先生方にご協力いただき、私たちのグループが1年間調査した研究結果(※1)からお示しします。
多忙を極める先生方のメンタルヘルスの状態が、時間の経過とともに、どのように変化するかを調査した研究は日本ではなかなかありません。
まずバーンアウトのプロセスですが、「小学校と中学校の教師において進み方が異なるのではないか」という結果がみられています。

バーンアウトの3つの要素である「情緒的消耗感」、「個人的達成感の後退」、「脱人格化」について、症状が進行するとどのように変化するかを調べました。

「情緒的消耗感」は気持ちが疲れ果て、もう働くことができないと消耗した気分になることを指します。
「個人的達成感の後退」は、やりがいを感じて仕事をし、満足するという気持ちが減少することを指します。
「脱人格化」は、対人援助職である教職員が児童生徒や保護者と距離を置き、冷淡な態度になることを指します。

小学校の先生によく見られる、バーンアウトの予兆

小学校の先生のバーンアウトのプロセスとして、まず「個人的達成感」が後退し、そして「脱人格化」が高くなり、最後に「情緒的消耗感」が高くなるという結果がみられました。

小学校の先生方は、登校時から下校時まで、授業や生活指導など学級経営のほとんどすべてを1人で任されており、ご自身が児童一人ひとりや学級全体のために頑張れば頑張るほど、手応えは実感を伴って返ってくることが多いのではないかと思います。
この点から小学校の先生は「個人的達成感」を得やすく、やりがいを感じやすいのではないでしょうか。

対人援助職である教職員は「ここまでやれば十分」という実感をもちにくく、やればやるほど「もっとやれるのではないか」と考えがちです。
「もう少しこうやってみよう、こうしてみたらどうか」と積極的に、前向きに考えることができているうちはいいのですが、「もっとやったほうがいいのではないか、やらないといけないのではないか」と追われるようになってしまうと、達成感を得にくくなり、負担感ばかりが増えてしまうと考えられます。

頑張るエネルギーのやりがいが得られなくなると、バーンアウトが進行し始めると思われます。
小学校の先生においては、「個人的達成感」が最近感じられない、何かやりがいを感じにくいと気づいたときがバーンアウトの始まるサインという可能性が大きいといえるでしょう。

中学校の先生によく見られる、バーンアウトの予兆

中学校の先生においては、最初に「情緒的消耗感」が、次に「脱人格化」が高くなり、最後に「個人的達成感」が後退するという結果が得られました。

中学校の先生は、教科指導はもちろんのこと、不登校、いじめ、非行など生徒指導上の対応や部活動指導など夜遅くまで、日々格闘することが多いと思われます。佐野・水澤・中澤の調査(※2)においては、クラスに問題行動を起こす児童生徒(暴言を吐く、教室に入らない、暴力をふるうなど)がいる場合、「先生はよりバーンアウト傾向が高くなる」という結果が得られています。

当たり前のことですが、問題行動は突発的に起きます。
そのため、急な対応が求められ、部活動指導が終わった夜遅い時間から家庭訪問を行ったり、対策のための会議が行われたりすることになります。
平日遅くまで対応に追われ、土日は部活動指導や地域の行事への参加、校務分掌の仕事のほか、通常の授業の準備、試験の問題づくりに採点など仕事が山積みとなり、日々消耗していく可能性は高いと思われます。

以前は家庭や地域で行われていた機能の多くが、学校に求められるようになってきたために、中学校における先生方の仕事量はますます増え、事務仕事の増加とともに多忙に拍車がかかっているといえます。
仕事に追われる毎日に、気持ちがすり減り始めたときが、中学校の先生におけるバーンアウトの予兆です。

予兆が現れたら自分を振り返る

小学校の先生においては、予兆が現れたとき、管理職をはじめ周囲に援助を求めたり、自分自身の業務を見つめ直したりすることが大事ではないでしょうか。
また、中学校の先生においては、身体を休ませるのはもちろんですが、後回しにできる仕事は後にするなど優先順位を決めたり、遅くまで頑張る日と早く帰る日のメリハリをつけたり、リフレッシュできることをみつけ、自分の気持ちに栄養を与えることが大事といえるでしょう。

一方で、若い先生は「個人的達成感」の後退からバーンアウトが始まり、ベテランの先生は「情緒的消耗感」からバーンアウトが始まるのではないかという結果も得られています。
若い先生は、やる気に燃えて頑張っているものの、そのやる気がなくなったときが危ないといえます。
本人がやりがいを感じられるように、仕事が重なったり、失敗が続いてしまったりしたときは、周囲の援助が必要です。また、ベテランの先生は若いときと同じように体力があるわけではないので、ご自身の心身の疲労具合をしっかりとチェックする必要があるといえるでしょう。

バーンアウトに陥る前に、予兆の段階で早めに気づき、ほんの少しご自身の状態を振り返ってみていただきたいと思います。

引用文献

(※1)西村昭徳・森慶輔・宮下敏恵・奥村太一・北島正人「小学校および中学校教師におけるバーンアウトの進行プロセスに関する縦断的研究」『心理臨床学研究』31,769-779.(2013)
(※2)佐野洸文・水澤慶緒里・中澤清「教師のバーンアウト要因に関する研究」『関西学院大学心理科学研究』39,69-74.(2013)

著者プロフィール

上越教育大学学校教育研究科教授、博士(人間科学) 宮下敏恵

上越教育大学学校教育研究科教授、博士(人間科学) 宮下敏恵

1991年早稲田大学人間科学部人間健康科学科卒業、1994年早稲田大学大学院文学研究科修士課程心理学専攻修了、1998年早稲田大学大学院人間科学研究科博士課程健康科学専攻修了、早稲田大学人間科学部助手、上越教育大学学校教育学部講師を経て、現職。 1997年4月財団法人日本臨床心理士資格認定協会認定臨床心理士(登録番号第6631号)資格取得、2001年10月 日本教育心理学会認定学校心理士資格取得。