「バーンアウト」に関連する要因

2014年12月22日

今回は、バーンアウトに関連する要因にはどのようなものがあるかについて、具体的にお話ししたいと思います。

個人的要因は性別、経験年数、性格…

第3回でもお伝えしましたが、バーンアウトに関連する要因は「個人的要因」と「環境要因」に大別できます。

「個人的要因」としては、性別、経験年数、性格などが挙げられます。
女性の方がバーンアウトに陥りやすいという研究結果も多くみられますが、バーンアウトの「情緒的消耗感」「個人的達成感の後退」は女性が高く、「脱人格化」は男性の方が高いという結果があります(※1、2)。

気持ちがすり減ったり、やりがいを感じられなくなったりするなどの点は女性が高く、関心が低下し煩わしい人間関係を避ける傾向は、男性が高いといえ、性別によってバーンアウトの内容に違いがあると考えられます。

次に経験年数についてですが、「若手がベテランよりもバーンアウト得点が高い」という研究もあります。
初任教員のメンタルヘルスの悪化も叫ばれていますが、精神性疾患による休職者は40、50代が多く(※3)、年代によってストレスを感じる内容や負担感が異なると考えられます。

また、性格については、理想主義的情熱の持ち主、使命感にあふれた人などがバーンアウトに陥りやすいとされています。

しかしこのような性格は、学校の教職員においては理想的な性格です。性格を変えればよいという単純な問題ではないところに対人援助職である教職員の仕事の難しさがあります。

ストレス・コーピングの種類

さらに「個人的要因」として、物事への対処のしかたであるコーピングも、バーンアウトに関連する要因として挙げられます。

コーピングとは、ストレスに対処する過程のことで、さまざまな行動を行うことや、とらえ方を変えるなどの努力を指します。
問題を避け考えないようにする「問題回避型コーピング」や気晴らしなどをする「発散逃避型コーピング」がバーンアウトを促進し、問題点をとらえ直したり、やり方を工夫したりするという「問題直視型コーピング」や「認知操作型コーピング」がバーンアウトを低下させるという結果がみられています。

目の前の問題を避け、気分転換ばかりしていてもバーンアウトの悪化は避けられず、問題そのものを正面に据えて解決したり、自分自身の考え方を変えていくことが、バーンアウトに陥らないためには有効であるという結果です。

しかし、多くの業務に加えて児童生徒との関係や保護者からの評価など、さまざまな問題があるなかで、常に問題を解決しようと頑張りすぎるとバーンアウトに陥る危険性もあります。
辛いときには避けたり、だれかに頼ったり、別の方法を考えてみたりと、そのときの問題や環境に応じて、柔軟に対応することが大事ではないでしょうか。

一つのコーピングだけを偏って用いていないか、ご自身のやり方をときどきは振り返ってみるとよいと思います。

環境要因は教職員の職務そのもの

次に「環境要因」ですが、一番大きくバーンアウトに影響しているのは教職員の職務自体であるともいわれています(※4)。

文科省(2013)の調査においても、一般企業の労働者に比べて教職員は仕事や職業生活におけるストレスをより感じており、ストレスの内訳としては、仕事量の多さと仕事の質の高さという結果が得られています。
川瀬隆千氏の著書(※5)によれば一般企業の労働者に比べて教職員は仕事の満足感は高いが負担感も高く、さらには食習慣の指導やしつけなどの家庭や地域で担うべき指導も負わされていることなどから心理的な負担感が高いといわれています。

バーンアウトに関連する環境要因としては、まずはこのように仕事量の多さ、そして社会の変化に伴い多岐にわたる役割を背負わされた学校という場における仕事の質の問題が挙げられるでしょう。

職場でのサポート体制が必要

また「環境要因」としては、サポート体制からの要因が大きいといわれています。

同僚や上司からのサポートがあるかないかは大きな影響を及ぼし、職場の人間関係はバーンアウトに関連する重要な要因です。
学校内外を問わず相談する相手がいないと、バーンアウト得点が高くなるという結果もみられており(※5)、まずは、だれか相談できる相手をみつけることが重要です。

個人情報の問題もあり、学校内の人に相談しづらい場合はカウンセリングなどの相談機関を利用することも大切です。
だれかに話すことで気持ちが楽になったり、新たな考え方が浮かんだりすることもあります。

もちろん職場内におけるサポートは重要であり、上司や同僚からのサポートが多いとバーンアウト得点は低下するという結果が得られています。
チーム援助、協働が必要といわれていますが、学校組織は疎結合性(それぞれに責任をもって任されていて、まとまって何かをしづらい)、被援助志向性の低さ(みんなも忙しいなかでだれかに頼りにくい、援助を求めにくい)などの特徴があるといわれており、サポートしたりされたりということはなかなか難しいのが現状です。

管理職が率先して、学校全体でサポートしあうことの重要性を繰り返し職員に伝えていく必要があると思います。
何か問題が起こったときにどのように対応するかという緊急のチーム編成はもちろん、日常の具体的な場面において、互いにサポートしあうことが重要かつ当然であり、実は効率がよいことを学校全体に浸透させていくことが重要でしょう。

バーンアウトに関連する主な個人的要因と環境要因を挙げましたが、バーンアウトに陥らないためにも、個人でできること、学校全体で取り組めることを少しずつでも行っていくことが大切です。
子どもたちの健やかな成長を支えるために、教職員がそれぞれの立場でご自身の健康はもちろん、同僚や部下の健康を保てるように、ほんの少し気を配り、行動することが大切ではないでしょうか。

引用文献

(※1)貝川直子「中学校組織特性とソーシャルサポートが教師バーンアウトに与える影響」『パーソナリティ研究』17(3),270-279(2009)
(※2)宮下敏恵「中学校教師のバーンアウト傾向に関連する要因の検討」『学校メンタルヘルス』15(1),101-118(2012)
(※3)文部科学省「教職員のメンタルヘルス対策検討会議の最終まとめについて」 2013年3月29日 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/088/houkoku/1332639.htm
(※4)高木亮・田中宏二「教師の職業ストレッサーに関する研究-教師の職業ストレッサーとバーンアウトの関係を中心に-」『教育心理学研究』51,165-174.(2003)
(※5)川瀬隆千「教師バーンアウトの要因と予防」『宮崎公立大学人文学部紀要』20(1),223-232(2013)

著者プロフィール

上越教育大学学校教育研究科教授、博士(人間科学) 宮下敏恵

上越教育大学学校教育研究科教授、博士(人間科学) 宮下敏恵

1991年早稲田大学人間科学部人間健康科学科卒業、1994年早稲田大学大学院文学研究科修士課程心理学専攻修了、1998年早稲田大学大学院人間科学研究科博士課程健康科学専攻修了、早稲田大学人間科学部助手、上越教育大学学校教育学部講師を経て、現職。 1997年4月財団法人日本臨床心理士資格認定協会認定臨床心理士(登録番号第6631号)資格取得、2001年10月 日本教育心理学会認定学校心理士資格取得。