「バーンアウト」発症の契機

2014年2月5日

今回はバーンアウトに陥る契機についてお話ししたいと思います。
バーンアウトに陥るにはさまざまな要因があると言われていますが、その多くは、第一に職場のストレッサー、第二に個人的要因、第三に仕事以外の要因(家族関係の問題など)が関係していると考えられています。この3つの要因を詳しく見ていきたいと思います。

学校現場における職場のストレッサー

まず職場のストレッサーについてです。教職員に最も強い影響を及ぼすストレッサーは「多忙」であると言われています(※1)。残業時間の長さは全産業の中でもトップクラスと言われていますし、文科省の調査(※2)でも昭和40年代に比べると何倍にも増大していることが分かっています。また休憩時間の短さ、休日出勤などの時間外勤務の長さなども指摘されています。

多忙の背景には、学校現場に限ったことではありませんが、たとえば問題が生じた場合、その問題の内容、経過や結果を報告するための書類作成の手間が増えたり、手続きが煩雑になったりする傾向があります。

また、諸経費の納入や地域活動への参画、参加など、幅広い業務の煩雑感も強いストレッサーとなり得ます。学習指導をはじめ、児童生徒や保護者への対応、学級経営や課外活動指導など、学習指導に直接かかわらない業務もかなりの負担になっています。

教育という仕事の「曖昧性」から生じる多忙感に、ストレスを感じる可能性も指摘されています。

指導上の問題への対応はもちろん、児童生徒との関係、保護者対応など、どこまでが教育という仕事の範疇なのか、曖昧な部分はすべて学校にお任せする、という社会的風潮も拍車をかけていると思われます。
さらに職場環境としての学校は、集団の規模が小さく、いったん上司や同僚との関係が悪化すると強いストレッサーとなると言われています。
そのため学校内のみならず外部機関との連携も求められています。

年齢、性別によっても要因は異なる

第二に、個人的要因についてです。
まずは「年齢」が挙げられます。文科省の調査(※2)によれば年代が高くなるほどストレッサーを強く感じるという結果が得られています。
年を重ねることにより経験は豊かになり、若い教職員に比べて、授業や書類作成、保護者対応などの業務には慣れてきますが、体力の低下やパソコン作業からくる目や肩の疲れなど、加齢による影響は大きいと言えます。

中堅の世代においても、校務分掌上で任される仕事が増え、部活動などの課外活動の指導でも中心となり、仕事量は多くなると思われます。
このように各年代において仕事の量や質、ストレスと感じる内容は変化しますが、それぞれの年代にあった対応策を見つけることができないと、バーンアウトの契機となり得るでしょう。

また男女によってもストレスの感じ方は異なると言われています(※3)。
女性においては、育児や家事との両立が求められることでの大変さがあり、また仕事にやりがいを感じにくいという結果が得られています。男性においては、任される仕事が量的、質的にも多いという結果があり、男女それぞれにおいてもバーンアウトへの契機は異なると言えるでしょう。

大切なことは、 一人ですべてを抱えないこと

もう一つの個人的要因としては、「性格」が挙げられます。
教職員の方は、まじめで責任感が強く、仕事に一所懸命に取り組む方がほとんどだと思います。このような姿勢があるからこそ、長時間の勤務や終わりの見えない対応に耐えられるのだと思います。
しかし、周りに気を遣い、援助を求めず、自分一人で抱え込んでしまう状態が長く続くと、いろいろと突発的なことが起こったときに、どんなに仕事ができる方でも対応が遅れたり、大事なサインを見逃してしまったりすることがあるのではないでしょうか。

人相手の仕事であり、多様な対応が求められるため、一人ですべてを行うことは不可能と言えます。抱え込まず、周りに相談したり、一緒に対応したり、組織で取り組んでいかないと、気がついたときには、無理が重なりバーンアウト状態になっている危険があります。

また、第三に掲げた仕事以外の要因が重なり、サポートがなかなか得られない状態が続くとストレス反応が生じ、やがてはバーンアウトに陥ってしまいます。

周りがサポートをしようとしても、本人がSOSを出さなければ周りもサポートすることができません。
責任をもって、自分で頑張ることは大切ですが、一人の力では限界があることを認識することが大切です。自分が中心になって動きながらも周りと一緒になって組織で支えることが、真に児童生徒のためになるのではないでしょうか。
上手に周りにサポートを求めることは、児童生徒を守ることにもなり、その児童生徒を支える自分をも守ることにつながります。

定期的に自分の状態をチェックすることが大切

これらの職場のストレッサーと個人的な要因、仕事以外の要因、サポート体制などをチェックし、定期的に自分の陥っている状態を見ていくことが大事だと思います。

仕事を任されると手を抜かずに、がんばる先生のところに、より多くの仕事が舞い込み、ますます仕事が増えてしまいます。
自分のことは後回しにして、常に相手を優先的に考える…。頭の下がる大変すばらしい姿勢だと思いますが、相手を支えるためには、まずご自身が健康でいなければなりません。

児童生徒のためにも、ご自身やその家族のためにも、前述したような要因がたまっていないかをチェックしましょう。
そして、仕事のやり方を変えたり、周囲に相談するなど、ストレスをためないよう、ご自身でしっかりと意識し、取り組んでみることが大切です。

引用文献

(※1) 鈴木邦治「教師の勤務構造とストレス−ストレッサーの認知的評価を中心に−」『日本教育経営学会紀要』35,69-82.(1993)
(※2) 文科省「教職員のメンタルヘルス対策検討会議の最終まとめについて」(2013年3月29日)http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/088/houkoku/1332639.htm
(※3) 宮下敏恵「中学校教師のバーンアウト傾向に関連する要因の検討」『学校メンタルヘルス』15(1),101-118.(2012)

著者プロフィール

上越教育大学学校教育研究科教授、博士(人間科学) 宮下敏恵

上越教育大学学校教育研究科教授、博士(人間科学) 宮下敏恵

1991年早稲田大学人間科学部人間健康科学科卒業、1994年早稲田大学大学院文学研究科修士課程心理学専攻修了、1998年早稲田大学大学院人間科学研究科博士課程健康科学専攻修了、早稲田大学人間科学部助手、上越教育大学学校教育学部講師を経て、現職。 1997年4月財団法人日本臨床心理士資格認定協会認定臨床心理士(登録番号第6631号)資格取得、2001年10月 日本教育心理学会認定学校心理士資格取得。