ストレスと付き合うために

2013年7月23日

バーンアウトに密接にかかわるものの1つ、「ストレス」について説明します。

そもそも「ストレス」とは?

前回はバーンアウトについて説明しましたが、バーンアウトに密接にかかわるものとして今回は「ストレス」について説明したいと思います。

「ストレス」という言葉は、もともとは物理学や機械工学の分野での用語であり、物体に外から力を加えたときに内部に生じる単位面積あたりの力のことです。鉄の板も力が加わり続けることによってゆがんでしまいますが、人間の心や体も外から負荷がかかり続けると不健康な状態になってしまいます。
正確には、このようにかかる力のことを「ストレッサー」といい、ゆがんだ状態を「ストレス」状態といいます。

厚労省が5年に一度実施している労働者健康状況調査(2007年)において、自分の仕事や職業生活に関して強い不安、悩み、ストレスが「ある」とする労働者の割合は58.0%でした。

教職員という仕事に限らず、働いている人の6割はストレス状態にあるといえるでしょう。けれども、ストレスの原因をゼロにすればいいというわけでもありません。人はいろいろな刺激があり、ある程度の負荷がかかる状態の中で、それを乗り越えることで手応えや充実感を感じます。

何の刺激もなく1日中ぼうっとしている状態が続けばすぐに飽きてしまいます。だからといって強いストレス状態が長期間続くとバーンアウトにつながる恐れがあります。

職場環境の改善が必須

民間企業に勤める会社員と同じように、教職員もストレスを感じている人は多いのですが、大きな違いとして職場環境の問題が挙げられます。民間企業においてはメンタルヘルスに関する取り組みが積極的に推進されています。
厚労省は2006年に「労働者の心の健康の保持増進のための指針」を発表し、事業者はメンタルヘルスの必要性を理解し、積極的に推進することを定めています。

学校現場においては、管理職向けのメンタルヘルス研修会が開催されたり、メンタルヘルスに関する相談窓口が設けられたりするなど、各地で少しずつ対策が行われていますが、まだまだ整備されていない学校が多いのではないかと思います。

文科省はメンタルヘルスに関する実態調査を踏まえて、平成23年12月22日、初等中等教育企画課長通知(※)を出しています。

通知では、
(1)校務の効率化の推進
(2)気軽に相談できる職場環境作り
(3)メンタルヘルス不調者の早期発見、早期治療
(4)復職支援体制の整備・充実
(5)意識啓発や相談体制の充実
などを挙げており、労働安全衛生法に基づいて、全学校において面接指導が行える体制の整備を推奨しています。
このように積極的に対策が行われるようになってはきていますが、さまざまな課題もあります。

学校ではどうしても児童生徒の問題が第一に考えられ、そこで働く教職員の職場環境としての整備は二の次になりがちです。

たとえば、「体調が悪いけれどテスト前で授業を自習にするわけにはいかない」というとき、授業だけはなんとか行い、それ以外の時間は体を休めたいと思っても、落ち着いて休める場所がなかったり、また他の教職員に迷惑をかけてしまうと気遣かったりと、休みにくい状況にあると思います。

その結果、少々(というよりもかなり)体調が悪くても無理をしてフルに働き、その結果、体調は悪化し、疲労はたまっていくということになってしまうのではないでしょうか。
休養できる場所を整備するなど職場環境を改善していくことが本来はいちばん大切なことだと思います。

行政が対策を進めやすくするためにも、教職員の皆さんが気持ちよく働くことが大事であり、そのことが児童生徒のために重要であることを社会全体に理解してもらうことが今後さらに求められると思います。

要因はさまざま。感情状態を整理してみる

職場環境の整備ももちろん重要ですが、教職員一人ひとりが注意できることとしては、まず自分自身のストレッサーを自覚することです。

ストレッサーは仕事量、人間関係、保護者対応、生徒指導上の問題、さらには仕事上での失敗や不安、昇進や配置転換での不満など多種多様です。こうしたストレッサーに加え、プライベートの要因として家族の問題(子どもが病気になる、親の介護が必要になる等)、さらにはご自身の性格として「完璧にしなければ気がすまない」といった要素が重なると、何らかの心理的反応が生じたり、体を壊したりということにつながります。

ストレスはベテラン、若手といった年齢や性別を問わずだれにでもあり、前述したストレッサーが重なれば、だれもがバーンアウトに陥る危険性があります。
児童生徒のために一生懸命頑張ることはすばらしいことですが、そのためにご自身が倒れてしまっては意味がありません。自分が今どんな状態にあるのかを常に意識することが大切です。

自分が何にいらだっているのか、どうしたら解消するのか、解消しにくいときは、どう気分転換するのか、だれかに助けを求めるのか、自分の考え方を変えて様子を見るのか等、ほんの少し考えてみることから始めましょう。

教職員だけではなく、医療従事者等においても感情労働についての研究が行われるようになっています。

人と接する職業、特に発達途中の子どもと接する教職員の皆さんにとっては、ご自身の感情を抑えたり無理して出したりということが求められます。子どもたちの感情に働きかけることも多いかと思います。感情と向き合う仕事はたいへんですが、ご自身の感情が子どもたちに大きな影響を与えるわけですから、ご自身の今の精神状態を自覚するように意識してみてください。

「落ち着かない」、「いらいらする」ときは、深呼吸をする、お茶を飲んでリラックスするなど、自分自身で気をつけて感情を調整するようにしてみてください。このことがストレス状態を悪化させないことにつながります。

引用文献

(※)文科省(2011). 平成22年度教育職員に係る懲戒処分等の状況、服務規律の確保及び教育職員のメンタルヘルスの保持等について(平成23年12月22日初等中等教育企画課長通知・23初初企第87号)
参考文献
・厚労省(2013).こころの耳 働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「ストレス軽減ノウハウ2 ストレスとは」
http://kokoro.mhlw.go.jp/nowhow/002.html(2013年5月26日)

著者プロフィール

上越教育大学学校教育研究科教授、博士(人間科学) 宮下敏恵

上越教育大学学校教育研究科教授、博士(人間科学) 宮下敏恵

1991年早稲田大学人間科学部人間健康科学科卒業、1994年早稲田大学大学院文学研究科修士課程心理学専攻修了、1998年早稲田大学大学院人間科学研究科博士課程健康科学専攻修了、早稲田大学人間科学部助手、上越教育大学学校教育学部講師を経て、現職。 1997年4月財団法人日本臨床心理士資格認定協会認定臨床心理士(登録番号第6631号)資格取得、2001年10月 日本教育心理学会認定学校心理士資格取得。