バーンアウトを考える

2013年2月1日

教職員に多い「バーンアウト予備軍」。その「バーンアウト」とは一体何なのか、詳しく解説します。

「バーンアウト」をご存知ですか

「仕事が終わると、心身ともに疲れ果てたと感じる」、「自分の仕事に限界を感じて失望してしまう」、「児童・生徒がどうなろうとかまわないと思い、冷たく接してしまうときがある」…。
皆さんは、仕事をしていてこのように感じることはありませんか。

こうした症状にあてはまるとき、もしかするとあなたは「バーンアウト予備軍」かもしれません。

バーンアウトとは、教職員や看護師など対人援助職に従事する人が一生懸命に仕事をし、長い間、過重なストレスにさらされ続けると、極度に心身が疲労し、感情が枯渇する症状を指します。

仕事に意欲を持って熱心に働いていた人が、急にやる気をなくし仕事がうまくいかなくなったり、ていねいにきめ細かく仕事をしていた人が急に投げやりになったり、また夜遅くまで精力的に仕事をこなしていた人が自信を失い仕事から逃れるなど、消極的になるケースがあります。
夜もなかなか眠れず、疲れを訴えるようになり、遅刻や欠勤が増え、休職さらには退職にまで追い込まれる場合もあります。

教職員の休職者数は増加の一途をたどる

皆さんもよくご存じだと思いますが、全国の公立小・中・高校教職員の休職者は増加の一途をたどっています。
図1は文部科学省(2011)の資料をもとに作成したものですが、病気休職者数のうち6割を超える人が精神性疾患による休職者です。

しかしこの数は1年以上休職している教職員の人数です。実際には1年以上休職はしないけれど1か月、3か月、最大で6か月以内の病気休暇をとっている教職員は、かなりの数にのぼるのではないでしょうか。
その数は、1年以上の休職者の数よりもかなり多いと考えられ、文部科学省の発表による休職者数は氷山の一角といえます。

なお、マスコミ報道では、精神疾患による休職者が多いことばかりを取り上げていますが、「それ以外の病気休職者も含めて考えるべき」とするのが専門家の見解です(※1)。

バーンアウトは徐々に進行するプロセス

教職員のメンタルヘルスの問題は、深刻な状態です。
精神性疾患による休職者にはさまざまな背景が考えられますが、その中でも、仕事を頑張りすぎてバーンアウトとなり、休職に追い込まれる教職員もかなりいると思われます。

バーンアウトは「情緒的消耗感」、「個人的達成感の後退」、「脱人格化」という3つの要素から成り立ちます。

「情緒的消耗感」とは、気持ちが疲れ果て、もう働くことができないと消耗してしまった状態を指します。
仕事による心地よい疲れや疲労感とは異なり、気持ちがすり減り、疲れ果てた状態で、情緒的消耗感はバーンアウトの中心であり核となる次元といわれています。

「個人的達成感の後退」とは、仕事を通して得られる達成感や充実感が減少することを指します。
皆さんは「どれだけ仕事を頑張っても報われない」、「批判ばかり受ける」、「善意でやったことが悪く評価される」という経験はありませんか。頑張ってもだれにもほめてもらえず、やって当たり前、うまくいかず失敗したら自分のせいにされる、といった状況下では、やる気も停滞し、児童生徒や保護者への対応に気持ちが入らなくなってしまうでしょう。

3つめの「脱人格化」とは、対人援助職である教職員が児童生徒や保護者等と距離を置くようになることを表しています。
職場内での対人関係が嫌になり、児童生徒や保護者だけでなく、同僚や上司との関係を避けたり、逆に怒りをあらわに攻撃的な態度になったりということが見られます。

非協力的な態度で機械的に仕事をこなしたり、思いやりのない紋切り型で冷たい対応をとったりするのも、これ以上自分が辛くならないために、相手との距離を置くためとも考えられますが、対人援助職である教職員が対人関係から遠ざかり、通り一遍の対応を行っていては、いずれ大きな問題になることは目に見えています。

バーンアウトは、こうした要素から成り立っており、少し休息してもすぐに回復するものではなく、徐々に進行していくものだといわれています。

今回はバーンアウトの概要について簡単に紹介しました。
今後は、この連載を通して、バーンアウトに関連する要因、バーンアウトの予防・対策などについて述べたいと思います。スクールカウンセラーとして、日々学校現場や研修会場など、さまざまな場所で教職員の方々とお会いし、メンタルヘルスの悪化を肌で感じ、理解している一人として、この連載を通じて、少しでもお役に立てれば幸いです。

引用文献

(※1)保坂 亨「教員のメンタルヘルスは危険水域-実態調査から浮き彫りになった問題-」『月刊生徒指導』40(7),6-11.(2010)
文部科学省「平成22年度 教育職員に係る懲戒処分等の状況について」文部科学省報道発表,2011年12月22日(2011)

著者プロフィール

上越教育大学学校教育研究科教授、博士(人間科学) 宮下敏恵

上越教育大学学校教育研究科教授、博士(人間科学) 宮下敏恵

1991年早稲田大学人間科学部人間健康科学科卒業、1994年早稲田大学大学院文学研究科修士課程心理学専攻修了、1998年早稲田大学大学院人間科学研究科博士課程健康科学専攻修了、早稲田大学人間科学部助手、上越教育大学学校教育学部講師を経て、現職。 1997年4月財団法人日本臨床心理士資格認定協会認定臨床心理士(登録番号第6631号)資格取得、2001年10月 日本教育心理学会認定学校心理士資格取得。