全国に広がりつつある宝物ファイル!

2014年11月15日

ある先生が実際に宝物ファイルの活動を行った結果、問題行動を起こす子どもが変わった! 宝物ファイル最終回は、そんな実践レポートを紹介します。

全国から届く、嬉しい実践報告

2000年から始めた宝物ファイル。2014年10月で丸14年が経ち、11月から15年目に突入です。
最初の頃は誰にも注目されず、出版社に原稿を送ってもすべて不採用でした。それでも、自費で本を出し、ずっと続けてこられたのは、担任した子どもたちのおかげです。
子どもたちの成長ぶりを間近で見られたことが何より嬉しいことでした。そして、今では、全国色々な所に呼んでいただくようになりました。

公演会やセミナーに参加いただいたり書籍を読んでくださったりした先生方から(北は北海道から南は鹿児島県まで)、うれしい実践報告が私の元に届きます。
その中から、A先生(小学校教師歴30年)の報告の一部をご紹介させていただきます。

キレる子がキレなくなった!~A先生の報告

複雑化、より深刻化してきた生徒指導の分野。これを打破するには何かいい手はないかとずっと模索してきた。
本当の積極的な生徒指導を行えば、「いじめ」や「不登校」は未然に防げるかもしれない。真の生徒指導が行われれば、日々の子どもたちの笑顔につながり、保護者の安心につながるかもしれない。そのために何かいい手はないか……と思ってきた。
自分ひとりでは子どもたちをみるのにも限界があり、1回ずつほめることはできても、2回、3回とはなかなかできないのが現実であった。夏休みの講座で岩堀教諭の実践を聞き、そんな思いに応えてくれそうだと思った。

私のクラス(5年生)には、大きな問題をもつ男子児童、B男がいた。4年生までいわゆる「キレる」子どもで、自分の気に入らないことがあると暴力を振るう、はさみなど刃物を友達に向ける、集会・音楽会練習に参加しない等、みんなと同じ行動を取らない。4年生の担任からも見放され、それが余計拍車をかけていた。
5年生になっても急に治るわけもなく、キレていた。しかし、「もうわからせないといけない。」という思いのもと、5月にB男がキレたことをきっかけに、全員でB男について話し合った。本人は泣いてその言葉を受け止めみんなに謝った。その後、週1回キレていたのが月1回くらいに減ったが、まだ感情のコントロールができていない状態であった。

B男に接していくうちに、「この子はリーダーシップを取りたいと思っている、だがそれが思うようにできなくて、いろんなところに八つ当たりしていくうちにキレることが普通になっていってしまった」ことがわかってきた。
落ち着いているときにB男のそばに行って、「そう、よくがんばったね。」「それでいいんだよ。」「今の○○の行動はよかったよ。」と、こっちが恥ずかしくなるほどほめていった。でも一度キレるともどってしまい、「あー、またか。」と治すことの難しさを痛感した。

保護者はB男を甘やかして育ててしまったことを後悔し、面談でその気持ちを伝えてきた。
保護者の気持ちを聞いても、B男を本当に治すことができない自分の指導に「B男は治らなくても仕方がない。最低限周りの子がけがをしないよう、見守ることが私にできることでは。」とあきらめかけていた。
心の底では、「これまでの小学校4年間(生まれてからは10年間)でこうなっているのだから、治らなくても仕方がない、焦っても仕方ない。」と思っていた。

4月から7月で向上は見られたが、本当に治ったとは言えず、いつ前の悪い状態にもどっても不思議ではない状態であった。そうはいっても、これまでの私の指導ではこれで十分であり、また次の担任に渡せばそれで終わりという思いも心のどこかであったのだろう。

こんな大変なB男が、宝物ファイルで友達の言葉をクリアファイルに差し込んでいっただけで「治ってしまった」のである。
B男は最初恥ずかしそうに、照れくさそうに友達の言葉を受け止めていた。リーダーシップは取れなかったが、自分の中に「友達から認めてもらえる心地よさ」がどんどん芽生えていっている様子が宝物ファイルの感想からうかがえる。
そんな中で昼休みにみんなと楽しく遊ぶ姿が(これまでは自分の我を通し、けんかし、友達を傷つけ、泣き、外れていってしまっていたのだが)どんどんふえていき、汗をびっしょりかいて教室に戻ってくる姿が当たり前のようになっていった。
12月、残り4カ月になった時点でB男は次のように書いている。

「5年C組も残り4カ月かぁ。いろいろあったな~ 残り4カ月楽しくすごして、けんかなしでいこう。」

宝物ファイルを実践する上で大切なこと

この文章を読ませていただいて、B男くんの成長が大変うれしかったのです。
B男くんのようにすぐにキレてしまうお子さんが最近とても増えてきています。でも、それは「みんなに認めてほしい」という気持ちの裏返しなのかもしれません。

最後になりましたが、よく「宝物ファイルを実践する上で大切なことは何ですか?」と聞かれます。
ポイントはこの連載でもお伝えしてきましたが、一番は、先生方が「どの子にも必ずいいところがある!」と信じ切ることではないかと思います。大勢の子どもたちが宝物ファイルを待っています。
その子どもたちの笑顔のためにこれからも一歩ずつ前に進みたいと思います。

効果抜群!元気なクラスに変えるとっておきの方法

学陽書房/定価1800円(税抜)
ISBN978-4-313-65243-9

本連載でも解説してきた「宝物ファイル」について、必要な材料や実践方法、さらには数々の事例を記録した1冊。
各ステップを授業で行なう場合の、学習指導案も掲載している。

10月11日、12日に東京のオリンピック研修センターで行われた「自己肯定感を高める~しあわせづくりフォーラム」には、140名のみなさんの参加があり、すごい熱気とともに研修会をさせていただきました。
東京以外にも秋田、奈良、京都、横浜などからお見えの先生方もいて、「地元に帰ったらすぐに実行したいです!」という力強い言葉をいただきました。

この連載も今回で一旦終了となりましたが、これからも私は宝物ファイルを広げるために自分にできることをやり遂げていきたいと思います。
私事ではありますが、仕事をしながら大学に通い、平成25年3月に「福井大学大学院教育学研究科教職大学院」を卒業しました。そして、今年の9月に、「大阪大学大学院大阪大学・金沢大学・浜松医科大学・千葉大学・福井大学連合小児発達学研究科博士課程」を受験して運良く合格させていただきました。
来年4月から、教師を続けながら3年間通う予定です。忙しくなりますが、時間のある限り呼ばれたらどこにでも行きますので、気軽に声をかけてくださいね。子どもたちのことが大好きなステキな先生方に出会えることを楽しみにしています。

これまでの12回の連載を読んでいただいて本当にありがとうございました。

著者プロフィール

一般社団法人子どもの笑顔 代表理事 岩堀美雪

一般社団法人子どもの笑顔 代表理事 岩堀美雪

福井県在住。元小学校教師(教師歴31年)。
子どもたちの「自己肯定感」を育むために、2000年から独自の「宝物ファイルプログラム」を実践。「NHK「クローズアップ現代+」や国連との共同制作番組等、マスコミ出演多数。全国の教育委員会、PTA、企業から講演・講座の依頼が相次いでいる。現在は福井大学子どものこころの研究発達センター特別研究員として研究に励む。
「自分を認め、お互いを認め合う世の中を実現したい」と本気で考える熱血元小学校教師。