「宝物ファイル」基本編 その2

2014年4月30日

「宝物」を入れることで、本当の『宝物ファイル』になっていくのですが、その「宝物」ってどんなもの? 宝物ファイルの基本編2回目です。

宝物を入れていく方法と注意点

宝物ファイルの目的や自分の夢、さらに自分の長所を書いて準備が終わったら、次に子どもたちの宝物を入れていきます。

入れるものは家から持ってきてもらいます。
ファイルに入りきらないものは、学校に持ってきたらデジカメで撮り、プリントアウトして渡しています。
子どもたちは、ストラップ、ぬいぐるみ、カード、賞状、メダル等、色々なものを持ってきます。

とはいえ、学校でなくしてしまったら悲しい思い出となってしまうので、「どうしてもなくなっては困るものを、学校へ持ってくるのはやめようね。」と伝えています。
また、友達に見せびらかすようなことがないように注意しています。カードゲームなどは「持ってきても学校で遊ばない」といった約束も、子どもたちと話し合って決めておきたいものです。

「何も入れるものがありません。」という子を無くすために、授業で使ったプリントや作文、絵日記などを返すときには、「こんなものを入れておくといいよねぇ。」と声をかけます。さらに図工の作品は一人ひとりが持っているところを写真に撮り、プリントアウトして配ることもしています。

最初は授業で行いますが、その後は休み時間などにどんどん宝物を入れていこうと伝えます。少しずつページが増えてくると、子どもたちも楽しくなってくるようです。
休み時間に宝物ファイルを広げて見ていたり、「先生、明日宝物持ってくるのでデジカメで撮ってください。」などと言いに来たりする子が現れたら、しめたものです。どこにでもあるクリアファイルが、『宝物ファイル』に変わってきている証拠です。

宝物ファイルに名前をつけよう!

中身が少しずつ入ってきた頃に(目安は1カ月程度)、宝物ファイルに名前を付けます。
つけ方は色々あると思うのでお好みで。
私は、グループごとに話し合って、案を一つずつ出し合ってもらい、それにした理由を発表してからみんなで話し合うようにしています。その後多数決で、クラス全員の宝物ファイルに統一の名前をつけます。

これまでの名前は、『シャボン玉』(シャボン玉のようにキラキラ輝きたい)、『にじ色の花』(にじのように輝いて、お花のようにきれいな人生を送りたい)。そのほか『未来への贈り物』『めぐみ』『ドリームパワー』『青空』『未来の翼』など、色々な名前がありました。
ちなみに、去年担任した3年生の子どもたちと決めた名前は『未来への太陽』。この宝物ファイルで、未来が太陽のように輝きますようにという願いが込められています。

名前が決まったら、いよいよ表紙作りです。

ここでの注意点は、どんな絵でも自由に描かせること。自分が一所懸命に描いた絵が表紙になるのは、子どもたちにとってとても嬉しいことのようです。
また、1冊目の『1』を表紙に入れておくことも忘れずに。何冊目かがすぐに分かって便利です。

4月になるとクラス替えがあったり、担任が変わったりします。このクラス担任、希望が通ることもあれば通らないこともあります。
福井県ではクラス替えを3年、5年で行う学校が少なくありません。ですので、2年間ずつ持ち上がりで担任することが多々あります。

ある年、3年生を担任していました。そのクラスには、A君という男の子がいました。4月当初授業に対して全くやる気がなく、友達とけんかばかりしていたA君でしたが、宝物ファイルを作り、放課後の個別指導を続けた結果、宿題も毎日提出するようになり、友達とも仲良く遊べるようになってきました。
3月の終わり、私は同じクラスを持ち上がりで4年生担任を希望しました。しかし、希望は叶えられませんでした。とても残念でした。別れる子どもたち一人ひとりに心を込めて手紙を書きました。

4月の始業式の日、「今日は、明るく振舞って手紙を渡そう。新しい担任の先生とも仲良くなってほしいから、めそめそと泣かないでおこう。」と決めていました。
体育館で担任発表があり、私は新しいクラスの子どもたちの前に立ちました。できるだけ元のクラスの子どもたちの方は見ないようにしていました。式が終わって教室に行こうとしたとき、新しいクラスに向かう廊下の曲がり角のところにA君がひとりで立っていました。私を待っていてくれたのです。
そして、彼は私に向かって、「ぼく、先生がいいです!先生と一緒に勉強したいです!」と言って泣き出しました。
「ごめんね・・・ごめんね・・・。」泣かないと決めていたのに、こらえていた涙が一気に溢れました。
「クラスは違ってもずっと応援してるからね。一生応援してるからね。」A君を抱きしめながらそう言いました。

実は、この話をあるテレビ局の若いディレクターさんにしました。すると、「あのう、失礼ですが、そのお年になっても(現在53歳です)まだそんな風に思うのですか?」と聞かれました。「えっ・・・?」意外な質問に改めて考えさせられました。
確かに、「担任は1年勝負だから未練はない。」とおっしゃる立派な先生方もたくさんいらっしゃいます。「なのに、なぜ私は、続けてもう1年受け持ちたいと未練がましく考えているのだろう・・・。」考えたのですが、理由はわかりませんでした。

そして、これが自分なのだから仕方がないという結論にたどりつきました。これからも、どれだけ年を取っても1年間担任すると子どもたちが大好きになり、ずっーと一緒に勉強したくなる自分、別れが悲しいと言ってボロボロと泣く自分でいようと思います。

著者プロフィール

一般社団法人子どもの笑顔 代表理事 岩堀美雪

一般社団法人子どもの笑顔 代表理事 岩堀美雪

福井県在住。元小学校教師(教師歴31年)。
子どもたちの「自己肯定感」を育むために、2000年から独自の「宝物ファイルプログラム」を実践。「NHK「クローズアップ現代+」や国連との共同制作番組等、マスコミ出演多数。全国の教育委員会、PTA、企業から講演・講座の依頼が相次いでいる。現在は福井大学子どものこころの研究発達センター特別研究員として研究に励む。
「自分を認め、お互いを認め合う世の中を実現したい」と本気で考える熱血元小学校教師。