子どもにこそ大切な「自己肯定感」

2014年1月22日

「宝物ファイル」を使用する理由はなんでしょう?
子どもにとっても重要な「自己肯定感」を育むためです。子どもたちにとって、自分を好きになることがどれだけ大切か、今回は実例を通しご説明させていただきます。

「がんばっている」「認められている」を形にする

第1回で紹介した自己肯定感は、人間の心の健康に大変重要なものですが、日本の子どもたちは、世界的に低いことで知られています。

そこで「自分を好きになる」という自己肯定感を高めるのに効果的なのが、「宝物ファイル」なのです。
がんばった自分の成果や、クラスメイト、仲のよい友達、家族、教師から認められた内容がファイルの中に形として残り、いつでも見返すことができます。そして「がんばっている」「認められている」という自己肯定感を育てる栄養素を吸収できるのです。

その積み重ねによって、子どもたちはどんどん自分を好きになっていけます。

自己肯定感のアンケート結果(文科省全国学力・学習状況調査より)
「自分にはよいところがある」に
「そう思う」と答えた割合
平成19年度 平成22年度
六年生全国平均 29.5% 31.5%
岩堀担当クラス平均 67% 61%

机に座れなかった子が1年間で驚くほどやる気が出た

実際に自己肯定感が大きく育った出来事をご紹介します。

クラス替えをしたばかりの3年生の担任となったときのことです。
4月当初、Aは、授業中もなかなか席につかず、教室の隅っこで上目使いで睨むように私を見ていました。目が合うと「ううーっ。」とうなっていました。どうにかして席に着かせても、教科書やノートをまともに開けようとはしませんでした。
宿題もやってこない日の方が多く、やってきたとしても、ふたつのうちひとつだけというような状態でした。友達に対して些細なことで腹を立て、毎日喧嘩が絶えませんでした。

クラスのみんなが使っている漢字や計算のドリルもどんどん遅れていきました。
授業の終わりに、「このページまで直し終わった人から休み時間にしようね。」と言っても、途中で遊びに行ってしまって、気がつくと教室にいないということも度々ありました。
そんなAに対して、どうするといいのか手探り状態でした。

宝物ファイルを実践する傍ら、まずはできることから始めてみようと思い、放課後の個別指導をすることにしました。
どうにかみんなに追いつき、授業の時に同じスタートラインに立てることを目標に、週1回程度、3時過ぎから5時半までの個別指導が始まりました。
Aは、最初の頃は集中力がなかったものの、途中から少しずつ集中して漢字の書き取りができるようになってきました。計算も時間がかかりましたが正確にできるようになってきました。

2学期になると、「先生、今度いつ放課後の勉強やるんですか?」と言って、放課後の勉強を楽しみにするようになってきました。嫌がる様子は全くありません。宿題も、一学期に比べると提出する日が増えてきました。そして・・・。
2学期途中の算数のある単元のまとめのテストで、何とAは満点を取ったのです。
嬉しそうな顔でした。以来、周りの子からも「Aはやればできるからなぁ。」と認められるようになりました。

そして、3学期。もう宿題を忘れることはなくなりました。休み時間になっても、ドリルやプリントの直しをせっせと持ってきます。
ある日の4時間目の終わりのこと、「もう給食の時間になったから、このドリルの直しは給食が終ってからしようね。」そう言って私は手を洗い、おかずを分けるのを手伝い始めました。そして、何気なく自分の机の方を見ると・・・。誰もいない机に向かって、Aがせっせとドリルの直しの続きをしているではありませんか。
一心不乱に問題に向かう小さな背中。その背中を見ながら、私は、涙が出そうになりました。4月当初のAの様子を思い出し、「ああ、本当に成長したな。」と。

さらに、3月に、「3年生になって成長したこと」を書いたときのことです。Aが、「先生、書きました。」と持ってきた紙には、10個ほど書いてありました。
「二重とびができるようになった。」などに交じって、「勉強が好きになったこと。」という言葉がありました。それもうれしかったのですが、私が何よりうれしかったのは、この一文を見つけたときでした。

「自分のことが好きになったこと。」

驚きました。まさかAがこんなことを書いてくるなんて思いもよらなかったからです。
私は、「自分ができるようになったことも書くといいよ。」という言葉をかけただけで、「自分のことを好きになったかどうかについて書くといいよ。」とは一言も言っていませんでした。
それで思わず、「今までは好きじゃなかったの?」という言葉が口をついてできました。
すると、Aは真っすぐに私の目を見つめて、「はい。嫌いでした。」と答えたのです。

胸が詰まりました。3年生の子がそんなことを考えていたなんて。
そして、「そうだったのか。自分のことを好きになったから勉強にもやる気が出てきたのだ。」とわかりました。
涙が止まりませんでした。

うれしいお知らせが届きました。
東日本大震災の年から少しでも被災地のお役に立ちたいと考えて、子どもたちとひまわりを育てて種を福島に送る活動『福島ひまわり里親プロジェクト』(http://www.sunflower-fukushima.com/)に参加しています。
その活動を通して子どもたちが書いた詩を元にして作った「ひまわり」(https://www.youtube.com/watch?v=3Tv89KiuEsE)という曲が、復興庁が主催する『REVIVE JAPAN CUP』のカルチャー部門ミュージックにおいてグランプリに選ばれました!!(2013年度) とってもとってもうれしいです。

著者プロフィール

一般社団法人子どもの笑顔 代表理事 岩堀美雪

一般社団法人子どもの笑顔 代表理事 岩堀美雪

福井県在住。元小学校教師(教師歴31年)。
子どもたちの「自己肯定感」を育むために、2000年から独自の「宝物ファイルプログラム」を実践。「NHK「クローズアップ現代+」や国連との共同制作番組等、マスコミ出演多数。全国の教育委員会、PTA、企業から講演・講座の依頼が相次いでいる。現在は福井大学子どものこころの研究発達センター特別研究員として研究に励む。
「自分を認め、お互いを認め合う世の中を実現したい」と本気で考える熱血元小学校教師。