「宝物ファイル」との衝撃的な出会い

2013年11月20日

「宝物ファイル」という独自のツールを使って、子どもたちの自己肯定感を育てる実践を行なっている岩堀先生。その「宝物ファイル」との出会いとは?

子どもたちに、自分を好きになってもらいたい

その年、私は教師になって17年目を迎えていました。その間に大勢の子どもたちに出会い、たくさんのことを子どもたちから教えてもらいました。
その中で、私の教師生活に一番影響を与えたもの、それは「どの子にも必ずいいところがある」「子どもは無限の可能性を持っている」でした。
勉強はあまり得意ではなくても、気持ちの優しい子もたくさん見てきました。そんな子どもたちが中学校へ行く時に、私が一番願ってきたこと。
それは、「例えテストの成績が悪くても、あなたにはいいところがいっぱいあるのだから、自分に自信を持ってずっと自分のことを大好きでいてほしい」ということでした。

しかし、中学校へ行って自分を見失い変わってしまう子もいました。「いいところがいっぱいあるのに・・・」とてもとても残念でした。

そんな私が2000年10月の終わりに、運命的な物と出会いました。それがポートフォリオです。
その日、私の心の中は、ちょっぴり悔しさでいっぱいでした。それは、指導主事訪問で理科の研究授業をしたときのこと。授業中に実験を自由に行うという方法(自由試行)は、当時としては新しい試みでした。
研究会では、皆さんが賛成意見を述べてくださいました。しかし、後日職員室で年配の先生と二人きりになった時、反対意見を言われたのです。

そこで私は、「もっと自由試行について勉強したい」と思い、ある教育書の巻末の広告ページを見て、関係の本を注文しました。そして、「もっとないかな」もう1ページめくった私の目に飛び込んできたもの。それが「ポートフォリオ」という言葉でした。

初めての言葉でしたが、「現場の教師から反響続々!」の文字につられて、鈴木敏恵先生のホームページを見に行きました。
ポートフォリオの語源は、紙挟み。ある目的を持って綴っていった物という意味があります。そこではクリアファイルがそう呼ばれていました。2001年4月から導入される総合的な学習の時間での評価に使えるということで注目され始めていたのです。
「なるほど、クリアファイルにこんな使い方があるのか。面白いな」そう思った私は、そこで販売されていた本とビデオを全巻注文しました。まさかその本の中の一冊に、自分の人生を変える1ページが含まれているとも知らずに・・・。

たった1ページの衝撃

ほどなくして本とビデオは送られてきました。「ふむふむ、なるほど、総合的な時間は、このようにして行うのか。ポートフォリオはこう評価に使うのか」と思いながら読み進めていきました。
そして、あるページをめくると、そこには、「ポートフォリオの種類」と書いてあり、こんな文章が書かれていました。

「パーソナルポートフォリオ・・・自分のマイナス探しではなく、プラスを見出し、それに関する様々なものを実際に綴じていくポートフォリオは、自分の存在や日々を受け入れ、「自信」を感じる気持ちにさせてくれる素晴らしい効果をもつ。ポートフォリオに入れるものは、何も立派なモノである必要はない。「自分の大切なモノ」を入れればいい。母からの手紙、美しく心に染みた紅葉、熱心に練習して得た算盤2級の小さな賞状・・・」

読んだ瞬間、左手から全身にビリビリッと電気が走ったような衝撃を感じました。それはまさに「衝撃」でした。体の中の全細胞が反応しました。これだ!これを使えば、私が子どもたちに長年願ってきたこと、「自分のよさを認め、自分に自信を持ち、自分のことを大好きになること」が形として残せる!と、強く思いました。

この時のことは、13年経った今でも鮮明に覚えています。買った本の左側のページ。たった1ページでした。何度も読み返しました。読み返すたびにワクワクしました。楽しいだろうな。子どもたちどんな顔するかな。喜ぶだろうな。興奮しすぎて夜中も眠れないほどでした。当時担任は5年生。2学期も半ばを過ぎていました。

次の日、私は朝からテンションが上がっていました。
「ねぇねぇ、すごーくいいもの見つけたから、放課後話を聞いて」なんて同僚に言っていました。放課後の職員室に5年西組担任の私と東組の女の先生、4年生担任の女の先生2人、合計4人が集まりました。
私は、衝撃を受けた本のページを見せながら話をしました。
「ねっ、ねっ、これいいと思いません?」「うん、楽しそうね」「そうでしょ。そうでしょ。何もすごいものを入れなくても習字や作文なんかも入れておけるし」「うん、簡単にできそうね」「そう、簡単。こんな簡単な方法があったなんて、すごくありません?」「そうね、びっくりね」。4人で時が経つのも忘れて盛り上がり、気がついたら外は真っ暗になっていました。

いよいよ実践へ! 最初の問題は・・・

早く始めたくてうずうずしていた私は、次の日から廊下で3人の先生方に別々に声をかけました。
「この前職員室で盛り上がったパーソナルポートフォリオ、一緒にやりませんか?」答えは3人とも同じでした。「まず岩堀先生やってみて。良さそうだったら私もやるから」。
「えっ・・・。あの盛り上がりは何だったの」と思いましたが一人でも、どうしてもやりたかったのです。「一人ぼっちになったのは残念だけど、自分一人でもはじめよう」と思いました。

あの時は、あれほど盛り上がっていたのになぜ?と思ったのですが、今思えば私が舞い上がっていただけかもしれません。あまりに興奮しているものだから、残りの3人の先生は、その私に付き合ってくださったのかもしれません。
また、ただでさえ仕事が忙しいので、新しいことを始めると時間が取られてしまう。ファイルを買って始めるのだから、お金もかかる。始めたからには責任があるから途中でやめられない等、色々と考えての答えだったのだと思います。

一人ぼっちになりましたが、どうしてもやってみたくて、すぐにファイルを探し始めました。
出入りの業者さんに聞いたら、「A4ポケットのクリアファイルは1440円です」との返事。「うわぁ、そんな高いものは学級費で集められない。どうしよう」と思ったところに、ちょうどよいタイミングで100円ショップがオープンしました。
旧武生市の8号線に近い場所でした。「105円なら学級費で集められる!」大喜びで買いに行きました。

実践を始めた際、パーソナルポートフォリオに関する情報を集めましたが、これだというものには出会えませんでした。こうなると、頼りになるのは鈴木敏恵先生の本の中の1ページだけ。
私は独自で試行錯誤を重ね、改良を重ねて現在に至っています。

なお、ポートフォリオは評価という意味が強いですが、私が行ってきた実践は評価とは無縁のものでした。そこで、今は「宝物ファイル」と呼んでいます。

その昔、「ラブストーリーは突然に」(古いっ!)というドラマがありましたが、まさに宝物ファイルは私の人生に突然やってきました。出会った当初は、自分が人前で講演することになることも、ましてやその講演&ワークショップの参加者が、39,000人を超えることになるなんて全く考えていませんでした。
子どもたちの成長を間近で見せてもらって、わくわくと楽しんで・・・。気がついたら13年間が過ぎていました。次にこのわくわくを体験するのは、今日この文章を読んでくださったあなたです!!

著者プロフィール

一般社団法人子どもの笑顔 代表理事 岩堀美雪

一般社団法人子どもの笑顔 代表理事 岩堀美雪

福井県在住。元小学校教師(教師歴31年)。
子どもたちの「自己肯定感」を育むために、2000年から独自の「宝物ファイルプログラム」を実践。「NHK「クローズアップ現代+」や国連との共同制作番組等、マスコミ出演多数。全国の教育委員会、PTA、企業から講演・講座の依頼が相次いでいる。現在は福井大学子どものこころの研究発達センター特別研究員として研究に励む。
「自分を認め、お互いを認め合う世の中を実現したい」と本気で考える熱血元小学校教師。