運動意欲が持続する集団での活動の工夫を通して

2013年11月6日

関東地方のとある中学校で行われた、ダンス指導のレポートをご紹介します。

中学校1学年「ダンス」における運動意欲が持続する集団での活動の工夫の一例

1 はじめに

私たちの市では、「言語活動の充実」を重視し、どの教科でも「学び合い」を授業の中で取り入れることを実施している。「言語活動の充実」という課題を保健体育科の運動領域の中で行うにあたり、「心身の解放」「身体による豊かなコミュニケーション」「今、ここから創り出す問題解決学習」という学びのスタイルができるダンスに着目。先駆けて研修会を開くなど、ダンスの必修化がされた中でたいへん恵まれた教育環境といえる。

2 研究のねらい

第1学年の保健体育科学習において、運動意欲が持続するような活動や運動・創作に見通しがもてるような教材を工夫することによって、子どもたちが意欲をもって活動しながら、互いに高め合いながら授業を行い、よりよいものを創りあげていくような集団の力を育むことのできる学習指導の在り方を究明する。

3 研究の仮説

保健体育科学習「ダンス」において、運動意欲が持続するような活動や運動・創作に見通しが持てるような教材を工夫すれば、子どもたちが意欲を持って活動しながら、良いダンスを創りあげようと高め合う活動を行い、よりよい集団を築き上げていく力を育むことができるであろう。

4 研究の進め方

本研究では、主題に迫るために「教材の工夫」とともに「リーダーの育成」、「学習過程の工夫」、「学習形態の工夫」を中心に研究を進めることにした。

5 研究の実際

(1)主題に迫るために
  1. 実態調査の比較・検討
    学習の事前と事後で、子どもがどのように変容したかを見取るため、実態調査を行うこととした。
  2. リーダーの選出
    主体的に課題を探求し、互いに高め合いながら、よりよりものを創りあげていけるよう、男子と女子とで2名ずつリーダーを選出することとした。
  3. 学習過程の工夫
    1. 系統性を重視した学習過程
      本研究では、次年度以降への系統性を考え、第1学年ではリズムダンスを取り扱うこととし、教職員サイドでダンスを教える場面と子どもたちでダンスを創作する場面の両方を学習の中で取り入れることとした。
    2. 運動量を確保できる単元計画
      体育における基礎・基本である「体力」を向上するには運動量が必要不可欠だと考えた。
      本研究では、単元全体を通して、運動量が確保できるよう計画を立てた。
    3. 発表を意識させた学習過程
      本単元の最後に学年発表会として、コンテスト形式のダンス発表会を行うこととした。
      また、毎時間の終末に、できたところまでの発表会を行うことで、子ども同士の相互評価や教職員の指導に生かせるのではないかと考えた。
  4. 学習形態の工夫
    本単元では、場面に応じて学習形態を変えることとした。導入で用いた体ほぐしの運動やストレッチなどでは、ペア学習を行い、リラックスした状態で主運動のダンスに入れるようにした。主運動のダンス場面で、教職員指導のダンスでは、一斉指導の形を取り、男女別のパート練習では、男女別のグループ学習の形を取った。
  5. 教材の工夫
    本単元では、ダンスで踊る曲に「座頭市~Festivo~」を選択し、その中で曲全体を大きく3つに分けた。
(2)実践研究
  1. オリエンテーション
    本単元「ダンス」は、10時間扱いとした。その中で、オリエンテーションを1時間取ることとした。オリエンテーションでは、まず単元の目標である「ダンス【座頭市】で踊りの基本を覚え、クラスの団結力を高めよう」ということを伝えた。そのことで、この学習を通してクラスの団結力を高めるものであることを共通理解させることができ、協力してひとつの作品を創りあげていくのではないかと考えた。
  2. 教職員サイドでダンスの基本を教える段階
    本単元では、ダンスで踊る曲を大きく3つに分けた中で、学年全員が同じ踊りを行うパートを教職員サイドでダンスの基本を教える段階と位置づけた。曲のはじめから全体の三分の一にあたる部分である。そこでは、ダンスの基本である8拍で行う踊りの振りつけを意識させた踊りと体の中心である「へそ」を前後左右に大きく動かすことを意識させるようにした。
    子どもたちにとっては、小学校で行っていた運動会のダンスの練習と近いものを感じていたようである。はじめは体をどのように動かしていいのか分からない生徒もいたが、近くの友だちに教わりながら覚えていたり、何回も踊りながら覚えていたりしながら、最終的には全員が踊れるようになった。
  3. 子どもたち同士でダンスを創りあげる段階
    各クラス男女別に踊りを行うパートは、各クラスの男女2名ずつのリーダーが中心となって男女とも8拍で行う踊りの振りつけを10個創作することとした。
    グループでの時間は、授業の時間までにある程度リーダーが考えてきて、授業の中ではみんなに教えることができるようにと伝えた。そのことで、リーダーががんばっているので協力をしようという雰囲気にできるのではないかと考えた。
    リーダーを中心にダンスを創作することは、子どもにとって思った以上に難しいと感じたようである。そこで、「まねをする」ことは、大事なことであることを伝え、踊りを踊る芸能人を参考にするよう話した。子どもたちは、AKB48やEXILE等といった芸能人のダンスの一部を自分たちのパートに入れ、踊りを少しずつ創っていった。
    授業の最後の発表会では、その日に創ったダンスを発表し、発表後には必ずリーダーから話しをさせた。思うようにいかなければ「なぜうまくいかないのか。」ということを考えさせた。そのことで、リーダーとしての自覚と周りの協力の大切さを知ったようである。単元末の反省カードにある自由記述の反省からも気持ちの変容が見て取れる。
  4. 発表会
    発表会は、子どもたちにとって初めて見るクラスがほとんどだったので、踊る楽しみと見る楽しみの両方があったようである。踊り終わった子どもの表情からは、満足感と達成感があふれていて、「もうダンスはやらないのかな。」「今日のダンスが一番良かった。また踊りたい。」と話す子どもがたくさんいた。単元末の反省カードにある自由記述の反省からも、この学習を通して、友だちとの仲が深まったことやクラスの団結力が高まったことを実感したようである。
    このことからも、この単元の学習を通して、主体的に探求し、互いに高め合いながら、よりよいものを創りあげていく集団の育成につながったのではないかと考えられる。
(3)子どもたちの変容

今回の研究の前と後では、生徒のダンスに対する意識の変化が見られた。つまり、教材や学習過程の工夫をすることで、子どもたちが運動意欲を持って主体的にダンスに取り組むことができるようになったと考えられる。また、ペア学習やグループ学習などの学習形態の工夫で、互いの良さに気付くことができたようである。
さらに、リーダーを中心とした各クラスでのダンス創りを行うことで、「ダンスを踊るのは恥ずかしい」と考えていた子どもも、「がんばっているリーダーのために」と意欲を持って活動することができたようである。クラス全員が同じ目標を持って、ダンスを踊ることでクラスの一体感を味わうことができたようである。

6 研究のまとめ

この授業実践を通して、主体的に運動に取り組み、互いに高め合いながら、よりよいものを創りあげていく集団を育てるためには、子どもたちがダンス作りを自分のものと考え、「もっと踊りたい。」「考えたい。」と思わせることが重要であった。そのため、子どもたちの関心の高い踊りや曲を使用したり、ワークシートを工夫したりすることで、子ども自身が主体的に学習に取り組み、自分たちの問題として課題を解決しようとする意欲につながったと考えられる。
さらに系統性を重視し、発表を意識させるという学習過程の工夫を行ったことで、子ども自身が毎時間ごとに目標をもち、リーダーを中心にダンスを創りながら、よりよい集団へと高め合えることにつながったと考えられる。

また、学習形態を場面ごとに変えながら学習を進めることで、子どもたち同士が協力して学習を進めることができ、「体育でペアやグループとなり、みんなと一緒に運動することは好きですか。」の項目で事前のアンケートに比べ、好きという子どもが多くなった。嫌いと答えた子どもは全体で3名しかいなかった。これらの理由は、「ダンスが難しくて合わせるのが大変だった。」等であった。個人差に対応していく必要も感じた。
しかし、「クラスが団結していると思いますか。」の項目で事前のアンケートに比べ、団結しているという割合が大幅に伸びたことからも、互いに高め合いながら、よりよいものを創りあげていく集団の育成につながったのではないかと考えられる。

7 今後の課題

ダンスを創作する場面で、話し合いが停滞してしまった時の補助資料の開発や個人差に対応する手だてが必要ではないかと感じた。
男女混合という群をつくり、より高いレベルでの意見の交流や一体感を味合わせることが今後の課題である。