「大津市いじめ事件」の調査報告書から考える①

2018年8月23日

大津市は、2011年10月に市内で起きたいじめ事件を受けて、外部の専門家による第三者調査委員会を設置しました。
本委員会は再発防止へ向けて、調査報告書を大津市に提出しました。私、荻上チキは2年間この委員会に参加し、アンケート結果の検証、そして具体的な対策の検討に特に力を入れました。
これから数回にわたり、大津市での調査に基づくデータを紹介します。

事件後の経緯と調査

2011年10月、大津市内の中学2年生の生徒が、いじめを苦に自ら命を絶ちました。
この事件を受けて大津市は外部の専門家による第三者調査委員会を設置。本委員会は再発防止へ向けて、調査報告書を大津市に提出しました。

この第三者調査委員会発足と同時に、大津市議会が「大津市子どものいじめの防止に関する条例」を策定、本条例に基づき「大津市いじめの防止に関する行動計画」が作成されました。
大津市は行動計画の評価を重ね、第二期行動計画(2017年~2022年)を策定しており、私は、この委員会に2年続けて参加し、さまざまな提言をしてきました。
特に力を入れたのが、アンケート結果の検証、そして具体的な対策の検討です。

大津市では「いじめに関する実態調査」を市内全小中学校を対象に、各学年から1クラスを抽出して行いました。そのため偏りが少なく、かつサンプル数の充実したデータになっています。これだけ大規模な調査ができるのは、自治体主体だからこそです。
これから数回にわたり、大津市での調査に基づくデータを紹介していきましょう。

いじめの時期と期間から見えること

図1は、「前の学年のとき、いじめを受けたことがありましたか?」という問いに対する答えです。
一見何気ない設問のようですが、実はこの設問は前年まで、「前の学年のとき」という文言は入っていませんでした。些細な差に感じられるかもしれませんが、この一言で得られるデータの意義が大きく変わってきます。
なぜなら、例えば中学生が「ある」と回答したとしても、それが小学校低学年での経験なのか、中学に入ってからの経験なのかによって、まったく意味合いが異なってくるからです。

 

 

結果、小学生よりも中学生のほうが、いじめの被害発生率が低いことがわかりました。
文科省調査の「認知率」では中学生のほうが高いですが、多くの調査が公表した「経験率」では小学生のほうが高くなります。これは小学生のいじめを、教師が「いじめとまでは言えない」と過小評価することも関わっているでしょう。

図2では、図1の質問にいじめが「あった」と答えた生徒に具体的な時期を聞きました。
結果、小・中学校ともに、圧倒的に9月~11月が抜きんでています。

 

 

9月1日の自殺率が高いこと(連休明けブルー)をはじめとして、9月はいじめ対策が必要なと時期であることは指摘されてきましたが、このデータによってその裏付けが取れた形になります。
8月は夏休みのため被害率ががくっと下がっていますが、中学生は8月もいじめが継続しがちで、数値が高めです。これは活動があるためです。そのため部活動の指導にも、いじめの注意喚起が必要だという論点が見えてきます。

時期の次は期間(図3)です。全体で一番多いのは、1か月以内に終わるいじめです。
長く続いても、3か月以内がほとんど。しかし、小学生と中学生を分けて見ていくと、中学生は、小学生に比べて長期にわたることがわかります。

 

 

小学生の場合は、ターゲットが次々と変わり、からかいが連鎖していく形になっているのですが、中学生の場合は被害率が低い一方で、一度ターゲットが特定されると、いじめが固定化・長期化されているケースが多いのです。

さらに次の設問では、具体的な被害の内容(図4)を聞きました。
小学生と中学生の結果を比較すると、「からかわれた」「仲間はずれにされた」などの、いわゆるコミュニケーション操作系のいじめは、中学生が増えています。一方で、「軽くぶつけられた」などの暴力系のいじめの割合は、小学生が高くなっています。

 

 

また、小中学生で差が大きい項目を見ると、「恥ずかしいことをさせられた」という思春期ゆえに深刻な悩みとなるいじめが増えたり、携帯電話の所有率が増えることによって、ネットを介したいじめが増えたりすることがわかります。

男女差、場所など環境から見えること

このほか、男女差を見ると、同性同士のいじめが多いには多いのですが、女子が男子からいじめを受ける割合が、男子が女子からいじめを受ける割合よりぐっと大きくなっています。

それはおそらく、いじめの対象となる女子は容姿をからかわれるケースが多いからだと考えられます。
「太っている」「ぶさいく」といった評価を男性がするのは、小中学生に限らず社会全体として多い。そのような社会背景からターゲットになりやすいのではないかと考えます。

また、いじめを受けた場所を聞いたところ、「教室」が1位で、「廊下」が2位。これまでの調査と同様の結果が出ています。
中学生の3位には、「クラブ活動の場所」となっています。中学生のいじめにおいては、部活動のような凝集性が高い集団の中で、休日や泊まりがけの行事により、長時間ともに過ごす環境がいじめの機会を多くしていることもわかりました。
部活動のいじめは、もっと議論を深めていく必要があるでしょう。

時間帯については、「お昼休み」と「休み時間」が抜きんでて多いことがわかりました。
ひまを持て余すけれど、教室にいなくてはならず、ストレスがたまる。ゲームも持ち込めず、ご飯やお菓子も食べられない。場合によっては、水を飲むことも制限をされている。

そのようなストレッサーを浴びた子どもたちが狭い人間関係の中で、10分間を解消しなくてはならない。
そんな特殊な環境にあり、なおかつ、先生が教室にいない、大人の監視の目に空白が生まれる時間帯でもあるので、いじめが起こりやすい環境となってしまっているわけです。

こうしたいじめの傾向を把握することで、「いつ」「どこで」「どんな」いじめに対策すればいいのかが見えてきます。
特に大人の目が行き届かない時間や、過剰に子どもたちが関わり合わなくてはならない時間には、注意が必要だということです。

 

(この記事は教職員共済だより163号(2017年7月発行)に掲載されたものを再掲載しています)

著者プロフィール

荻上チキ

荻上チキ

1981年生まれ。シノドス編集長。評論家・編集者。

主な著書に『ネットいじめ』(PHP新書)、『社会的な身体』(講談社現代新書)、『いじめの直し方』(共著、朝日新聞出版)、『ダメ情報の見分け方』(共著、生活人新書)、『未来をつくる権利』(NHK出版)など

NPO法人ストップいじめ!ナビ http://stopijime.jp/