教師の「理不尽な指導」がいじめを頻出させる

2016年12月7日

今回は、児童・生徒にとって重大な「環境」の一つである、「教師の振る舞い」について考えてみます。

指導のかたちといじめの関係

この連載ではこれまで、いじめに関する一つの重要な視点を提示してきました。
それは、いじめ問題に取り組みたいのであれば、加害者の道徳精神などにばかり着目するのではなく、児童・生徒を「いじめ加害者」にさせてしまうような「環境」に着目するべきだ、というものです。
今回は、児童・生徒にとって重大な「環境」の一つである、「教師の振る舞い」について考えてみましょう。

体罰

教室空間において、教師の振る舞い方の持つ影響力は多大です。そのあり方によって、「不機嫌な教室」になるのか「ご機嫌な教室」になるのかの運命が大きく分かれるとさえ言えるでしょう。
例えばどんな振る舞いが、児童・生徒にとっての「不機嫌因子」となり、いじめを誘発するのでしょうか。

まずは鈴木智之「学校における暴力の循環と『いじめ』―大学生を対象とした回想形式の調査結果を起点として」からいくつかのデータを引用しましょう。

体罰といじめの頻度

表1は、教室内の体罰の頻度と、いじめの頻度との相関を示したものです。体罰が多く行われている教室ほど、いじめが頻繁に発生していることがわかりますね。

私見ですが、児童・生徒に体罰を振るうような教師は、体罰だけでなく日常的に、「怒鳴り」「命令」「叱責」など、児童・生徒に対して威圧的なストレスを与えていることが想像できます。つまり、「怖い先生」の存在が「不機嫌な教室」を作り出す要因となり、いじめというアクションを頻出させるわけです。
一般的なイメージと異なり、厳しすぎる指導は児童・生徒の心理にとって逆効果だと言えるでしょう。

また、体罰というのは、教師自ら、「悪い者がいれば、暴力によって制裁してかまわない」というメッセージを発信してしまうことになります。いじめはしばしば、「相手が悪いからこらしめる」といった動機付けで行われもします。
現在の学校制度では、当然ながら体罰は禁じられていますが、体罰に限らず「威圧的な指導の在り方」もまた、その効果を見直す必要があります。ただただ、「教師のストレスの発露」であり、「教師の威厳の誇示」による「その瞬間の秩序の維持」のためだけに行われているような指導であれば、改めなくてはなりません。

服装・髪型への指導

 

体罰といじめの頻度

 

表2は、服装や髪型の指導の厳しさと、いじめの発生頻度の関係です。
学校というのは不思議な空間で、大人であれば自由であるはずの服装などに、大人から厳しい「ダメ出し」が行われます。そうした指導は、児童・生徒にとっては「理不尽」に感じられるものですが、その度合いが強い教室ほど、いじめが頻繁に発生していることが分かります。

つまり児童・生徒に対して、過剰に「道徳的にふるまえ」と求める教室は、逆効果になりかねません。
また、「道徳的」の中身も重要です。もしそれが、多様性を認めるという意味ではなく、特定の秩序を乱さないという意味であれば、それは同調圧力を高め、「道徳に従わないものへの排除」を肯定してしまいます。

児童同士の連帯責任を課す

次に、秦政春「いじめ問題と教師 : いじめ問題に関する調査研究(Ⅱ)」から、いくつかのデータを引用しましょう。

体罰といじめの頻度

まずユニークなのが、表3です。「連帯責任」という、ほとんど軍隊か学校でしか存在しえないような謎のオキテ・その経験と、いじめ被害との関係性を表しています。
理不尽な指導が、児童のストレスを増大させることを示唆しています。

「連帯責任」なる文化は、児童同士に憎しみを植え付けます。
「○○のせいでこんな目に遭った」と、特定の児童に対してスティグマを与え、相互監視を強化することにもつながります。一方で、「連帯責任」を導入することで、指導がうまくいくようになるという根拠はありません。
また、「連帯責任」そのものだけでなく、「連帯責任を導入するような理不尽な教師の下ではストレスが増大しやすい」とも言えるでしょう。

「相手は子どもだから」と、合理的に説明できない教育を行うべきではありません。社会で大人相手にやっておかしなことは、大抵は学校で子ども相手にやってもおかしいものです。それを、知らず知らずのうちに、「学校とはそういうものだ」という思い込みによって継続してしまってはいけません。

先生のいじめ

体罰といじめの頻度

表4は、根深い結果です。先生に「いじめられた」と答える児童は、「クラスの人をいじめる」経験が増大しています。これも二つのことが考えられるでしょう。
教師自ら、児童をいじったりいじめたりするような教室では、いじめそのものが蔓延していること。そして、教師の態度を不快だと感じている者は、そのストレスからいじめという行為に手をだすということです

いじめを発生させないために抑圧せず、児童・生徒の話を聞く

体罰といじめの頻度

表5は、「担任の先生が話をよく聞いてくれること」と「クラスでいじめが生じること」との関係です。
先生が話を聞いてくれると信頼されている場合にはいじめが少なく、そうでない場合はいじめが増大しています。

要は、子どもの話をじっくり聞くことによって、児童・生徒のストレスが取り除かれ、いじめ発生を後押しする「不機嫌因子」を除去できるということです。

まとめましょう。どういう条件によって、教師はいじめを抑止できるのでしょうか。
その答えは、案外シンプルそうです。児童・生徒にストレスを与える教師ではなく、ストレスを取り除く教師になること。そのためにはどう振る舞えばいいのか。一つひとつ点検していくことが大切です。

出典:(表1・2)鈴木智之「学校における暴力の循環と「いじめ」―大学生を対象とした回想形式の調査結果を起点として」社会労働研究45(2),1998 (表3-5)秦政春「いじめ問題と教師 : いじめ問題に関する調査研究(Ⅱ)」大阪大学人間科学部紀要.25,1999

(この記事は教職員共済だより158号(2016年4月発行)に掲載されたものを再掲載しています)

著者プロフィール

荻上チキ

荻上チキ

1981年生まれ。シノドス編集長。評論家・編集者。

主な著書に『ネットいじめ』(PHP新書)、『社会的な身体』(講談社現代新書)、『いじめの直し方』(共著、朝日新聞出版)、『ダメ情報の見分け方』(共著、生活人新書)、『未来をつくる権利』(NHK出版)など

NPO法人ストップいじめ!ナビ http://stopijime.jp/